<ポイント>
◆2017年総会では新しい対応は不要
◆株主からの質問等に備えて取締役報酬とWEB開示についての検討を
あと3ヶ月強で多数の会社が定時株主総会を開くことになり、今はそのための準備を意識する時期となりました(特に6月総会会社。以下同会社を念頭に述べます)。
一昨年(2015年)5月に改正会社法等が施行され、昨年(2016年)7月にコーポレートガバナンス・コードの適用が開始しましたが、これらの改正等に関する多くの事項については昨年6月の定時株主総会で対応済みになっているはずです。
そのため、今年の株主総会では対応を迫られる新たな法令や制度の改正等はなく、原則として従来の準備で足りるものと思われます。
しかしながら将来の法令、制度改正を念頭において今から検討しておいた方がいいと思われる事項はあり、本稿ではそのうち取締役報酬改定とWEB開示の2点について述べます。これらは株主総会で質問が予想されるものでもあります。
取締役報酬については、コーポレートガバナンス・コード原則4-2で「経営陣の報酬については、中長期的な会社の業績や潜在的リスクを反映させ、健全な企業家精神の発揮に資するようなインセンティブ付けを行うべきである。」、同補充原則1で「経営陣の報酬は、持続的な成長に向けた健全なインセンティブの一つとして機能するよう、中長期的な業績と連動する報酬の割合や、現金報酬と自社株報酬との割合を適切に設定すべきである。」とされています。
これに対応するためと思われますが、役員報酬議案を定時株主総会で付議した会社は、平成27年6月総会で18.1%、平成28年6月総会で26%と増えているようです(商事法務株主総会白書)。
現段階では多くの会社が、株主総会で取締役報酬総額の上限額を決めておいて、取締役会で個別の取締役報酬を決定するという従来の方法を採用しています。
しかし、上記の「中長期的な業績と連動する報酬」や「自社株報酬」に対応するものとして、従来から採用されてきた「ストックオプション」、最近採用例が増加している「株式給付信託」、経産省により導入の手引きが公表されている「リストリクテッド・ストック」などの検討を開始しておいた方がいいと思われます。
なお、「ストックオプション」の内容については拙稿「株式報酬型ストックオプションについて」、「有償ストックオプションについて」を参照してください。
また、「株式給付信託」とは、簡単にいえば、取締役は企業の業績に応じてポイントが付与され、退任時にポイント数に応じた株式を会社の設定した信託を通じて受け取る方法で、「リストリクテッド・ストック」とは、取締役は金銭報酬債権を現物出資することにより発行された株式を一定期間の譲渡制限合意をして受け取る方法です。
WEB開示については、主として招集通知の発送前WEB開示と会社法上のWEB開示(招集通知の一部の電子提供)の2つの視点があり、前者については、コーポレートガバナンス・コード原則1-2(補充原則2)で「招集通知に記載する情報は、株主総会の招集に係る取締役会決議から招集通知を発送するまでの間に、TDnetや自社のウェブサイトにより電子的に公表すべきである。」とされています。
招集通知の発送前WEB開示は、平成28年総会では83.9%の会社が行っているということです上記同白書)。
また、後者について、事業報告の一部(たとえば内部統制決議)、計算書類の一部(たとえば株主資本等変動計算書、個別注記表参考書類や連結計算書類)を株主に対してWEB開示により電子提供できます(ただし、定款の規定が必要です)。
会社法上のWEB開示は、平成28年総会では56.3%の会社が実施しているということです(上記同白書)。
ほとんどすべての上場会社がホームページを開設していると思いますが、そのすべての会社がWEB開示をしているわけではなく、将来の制度変更の可能性も念頭においてその採用の検討を開始するべきだと思います。