訴状を作成するときに何を考えるか?

<ポイント>
◆訴状の「請求の趣旨」は、原告側の請求内容の結論を示すもの
◆「請求の原因」は、法律効果の発生原因事実を原告の立場で法律的に構成したもの
◆弁護士はプレゼンテーションとして裁判官に訴えかける工夫が必要

訴訟提起に際して弁護士がどのようなことを考えながら訴状を作成しているのか、今回はその一部をお話ししてみたいと思います。
まず、依頼内容がどのようなものであれ、クライアントがどのような問題に直面しているのか、法的に何ができるのか、どの程度の証拠を提出できるのか、ということをクライアントからのヒアリングや弁護士独自の調査により把握することが出発点です。
そのうえで法律構成や請求内容を見定めて訴状を作成していきます。
訴状の最低限の記載事項は民事訴訟法で定められています。重要な項目としては「請求の趣旨」と「請求の原因」を特定して記載せよということになっています。

「請求の趣旨」は、原告が被告に対して結論的にいかなる請求をしたいのかを示す記載です。代金請求や損害賠償請求といった金銭請求であれば金額やその計算式を明示します。
ここでは「売買契約に基づき」とか「損害賠償として」といった法律構成には言及しません。たとえば「被告は原告に対して金1億円を支払え」といった記載内容であり、金銭請求であれば記載としては比較的単純です。
これに対して、違法行為の差止請求をしていくケースになると、いかなる行為を差し止めたいのかを具体的に表現していく必要があり、紋切り型というわけにいかない場合がでてきます。個別事案に即していて、かつ、勝訴したときに強制執行までもっていくことができる請求内容としなければいけません。

定型的な紛争パターンのようでいて、請求の趣旨の記載が案外単純ではすまないこともあります。たとえば賃貸物件の貸主が借主に原状回復を請求したいという場合、「被告は原状回復せよ」では請求の趣旨として特定不充分とされています。
そのままでは裁判官に審理してもらえませんが、仮にそうした請求内容で勝訴しても強制執行できません。原状回復にかかる費用を見積もって金銭請求に置き換えるなどの方策が必要です。

「請求の原因」は、請求の趣旨に示した請求内容の発生原因を示す事実を法律的に構成した記載です。
売買代金請求訴訟であれば売買契約の内容、交通事故による賠償請求であれば事故の内容、それによる被害者側の損害といった主張内容がこれに該当してきます。
紛争に関係する細かな事情をあげればキリがないところですが、「請求の原因」としては、法律効果の発生に直接むすびつくとされる「要件事実」のうち、原告側が立証責任を負う事実について主張内容を明示せよというのが最低限の要請です。
純粋に民事訴訟の理屈でいえば、売買代金請求訴訟では売買契約の内容は「請求の原因」として原告側が主張すべしとされるものの、被告側(買主側)が代金を支払ったか否かについては必ずしも言及しなくともよいということになっています。
ただし実際には、被告側が期日に代金を支払わないことや、代金不払いをめぐって訴訟前に交渉した経緯なども訴状のなかで主張していくことが通常です。
民事訴訟法で要求される最低限の記載だけでは裁判官のイメージに強く訴えかけることができないため、原告側として主張していきたいストーリーを肉付けして訴状に記載していこうとするためです。より有利に裁判を展開していくための工夫です。
訴状の段階で具体的なイメージを裁判官にもたせることができないと、被告側の反論書面(答弁書)をみて裁判官が被告寄りの心証をもってしまうおそれが生じます。
これを防ぐためには先手を打てということで、訴状で具体的なストーリーを主張していきます。

ただし、あまり細かな事実まで書き連ねようとすることには弊害があります。
その一つは訴状の提出までに日数がかかってしまうこと。後日追加して主張すれば足りる程度のことにこだわって手続きが遅れてしまうのではクライアントの利益を損ないます。審理を有利にすすめていくうえで大事なことにしぼって主張しなければいけません。
弊害のもう一つは、重要な事実が埋もれてかえって裁判官に理解されにくくなることです。
このためミニマムな「要件事実」以外の「関連事実」は項目や字体をわけて記載する、といったことを考えるべきです。
裁判書面も一種のプレゼンであって、わかりやすく、読み手がイメージをもちやすいように、という工夫が必要なのです。