相続税額計算上の基礎控除縮小による相続税の課税範囲拡大が行われ、2年半が経ちました。
この改正の影響は大きく、日本全国の年間死亡者数に占める相続税申告書の提出件数の割合は、平成26年の約4.4%から平成27年には約8.0%と飛躍的に上昇しました。
金融保険業、不動産業などの関連業界では、相続税対策を売りにした商品が売れ筋で、世間の関心も高く、今後もこの状況は続くものと考えられます。
しかし、「相続税」対策を意識しすぎるあまり、結果として本来の「相続」対策になっていない例も見受けられるため、今回は「相続」対策の基本を今一度整理してみます。
「相続」対策は一般的に、1.現状把握、2.分割対策、3.納税資金対策、4.節税対策について検討すべきと言われています。
1.現状把握
現預金、不動産、有価証券、生命保険、債務等の財産債務を列挙し、権利関係を確認した上で、概算の評価を行います。ここで漏れがあったり、権利関係に相違があれば、後々の対策に大きな影響を及ぼす可能性があるため、非常に重要な段階です。
次に、現状の財産状況と本人の意向などに基づいた分割案を基礎に、税額を概算します。この段階で相続税が課されないとなった場合は、そもそも「相続税」対策は不要であることになります。
2.分割対策
債務がある場合、返済減資となる財産や事業と紐付けで相続しないと返済ができなくなります。
また、不動産の共有や非上場株式の分割は、将来の状況変化等で実情にそぐわなくなることも考えられるため、慎重な判断が必要です。
本稿をお読みいただいている方は、少なくとも事前対策の必要性を理解しておられると思いますが、それでも相続の話題には触れづらく、何の話し合いもせずに相続を迎えるケースも散見されます。
相続人同士で争うことのないように、分割の仕方をよく検討し、必要に応じて遺言書等で対策しておくことが望まれます。
3.納税資金対策
1.2.を元に算出された相続税額が、支払可能かを相続人ごとに確認します。不動産や自社株式の割合が高い場合は特に注意が必要です。支払困難と想定される場合には、不動産の売却優先順位等を早めに検討しなければなりません。
税制上、延納や物納という制度はありますが、バブル崩壊直後と比べて適用件数は著しく減少しており、適用できないものと考えておく方が無難です。
4.節税対策
相続税額を抑えるためには、相続財産を減らす必要があります。
これには、生前贈与で減らす方法と財産構成を変化させることで減らす方法があります。
もともと贈与税は相続税を補完する目的で税率は高めに設定されていましたが、近年では、若年層への早期財産移転を促す経済政策から、税率が改正されたり、非課税制度が拡充されたりしています。
本稿では、詳しい解説は省略しますが、生前贈与であれば、①計画年数を想定し、②上記で算出された相続税の限界税率と贈与税の実効税率の差を利用して暦年贈与を実行するとともに、③教育資金や配偶者控除、住宅取得等資金などの贈与税の非課税制度の併用を検討することが一般的です。
一方、財産構成を変化させることで相続財産を減らす方法には、生命保険の活用や不動産の購入が挙げられます。
ただし、相続財産を圧縮するには、何らかのリスクを伴います。
例えば、現預金よりも不動産の方が評価額を下げることはできますが、不動産取得に伴う諸費用やその後の維持費用、地価変動リスク、賃貸借等の権利関係に基づくリスクを抱えています。これらを鑑みて評価方法が定められている点を理解した上で、対策を実行する必要があります。