<ポイント>
◆社外取締役のいない上場会社は監査等委員会設置会社への移行の検討を
◆監査等委員たる取締役は独立性の点では監査役とほぼ同じ
◆監査等委員会の同意があれば利益相反取引における任務懈怠の推定がなくなる
平成26年6月20日に会社法が改正され、同月27日に公布されました。改正会社法(本稿では上記改正後の会社法をこう呼ぶことにします)の施行は公布の日から起算して1年6月を超えない範囲内において政令で定める日となっています。
改正会社法では、上場会社であっても社外取締役の選任義務は採用されませんでしたが、社外取締役を選任していない上場会社は「社外取締役を置くことが相当でない理由」の説明義務を負うことが規定されました(本稿では上場会社を念頭において説明します)。
一方で改正会社法では監査等委員会設置会社が新設されました。その内容は後に詳しく述べますが、社外役員の最低員数については、監査等委員会設置会社に移行すれば従来の監査役会設置会社と同じということになりました。
改正会社法は2015年4月1日に施行される可能性が高いといわれていますので、3月を決算期とする社外取締役を選任していない監査役会設置会社は、事実上、2015年6月の株主総会までに社外取締役を1名選任するか監査等委員会設置会社へ移行するかが迫られている状況です。
社外取締役を選任していない監査役会設置会社では、2015年6月までに適当な社外取締役を見つけられる見通しが立たないなどの理由から監査等委員会設置会社への移行を真剣に検討しているところもあると思います。
そこで、監査等委員会設置会社と監査役会設置会社の重要な相違点をピックアップして説明します。
監査等委員会設置会社では、監査等委員となる取締役はそれ以外の取締役と分けて選任され、その員数は3名以上であることは「監査等委員となる取締役」を「監査役」と読みかえれば監査役会設置会社と同じです。ただ、監査等委員となる取締役の過半数は社外取締役でなければなりません(監査役会設置会社では監査役の半数以上が社外監査役でなければなりません)。
また、監査等委員となる取締役の選任等の議案を株主総会に提出する際には監査委員会の同意が必要であるなどにより監査等委員となる取締役の独立性を確保していることも同様です。ただ、監査等委員となる取締役の任期は2年です(監査役会設置会社では監査役の任期は4年です)。
監査等委員会が監査報告を作成しなければならないことも監査役会設置会社と同じです。
しかし、監査等委員会設置会社では、監査等委員も取締役として取締役会決議に参加します。また、取締役の過半数が社外取締役である場合や定款で定めた場合には、監査役会設置会社では取締役会の専決事項であったものでも代表取締役などが決められるようにすることができます(ただし、一定の事項はこの範囲外です)。
また、監査役会は常勤監査役を1名以上選定しなければなりませんが、監査等委員会設置会社では常勤の監査等委員となる取締役の選定は要求されていません。
そのほか、監査等委員会が取締役の利益相反取引を承認した場合には、当該取引に関与した取締役の任務懈怠の推定がされません。これについて少し詳しく述べます。
取締役は、自らまたは他人の代表者、代理人として会社と取引きしようとする場合や会社が取締役の債務を保証する等の場合、これらの取引等により会社に損害が発生すれば取締役に損害賠償義務が生じることがあります。
利益相反取引が行われた場合、この損害賠償義務が生じる可能性のある取締役は①直接取引の相手方である取締役、第三者のため会社と取引をした取締役または間接取引において会社と利益が相反する取締役、②会社を代表して当該取引をすることを決定した取締役、③当該取引に関する取締役会の承認決議に賛成した取締役に分類されます。
これらの取締役のち①の取締役のうち直接取引の相手方である取締役は無過失責任とされており、過失の有無に関わらず責任を負います。
しかし、①の取締役のうち上記取締役以外の取締役、②と③の取締役は任務を怠ったものと推定されますが、会社の損害発生に関し過失がないことを証明して責任を免れることができます。
これらの取締役については、監査等委員会設置会社では、監査等委員会の承認があれば任務を怠ったとは推定されませんから、会社が被った損失について取締役に損害賠償請求をする場合には、その取締役に過失があったことの立証が必要となります。
なぜ、このような制度が導入されたかについては、監査等委員会設置会社の利用を促進するためといわれています。
また、監査等委員会の承認は「事前」の承認が必要だとは明記されていないことから、事後の「承認」でも足りる可能性がありますが、これについては今後の議論を注目しておく必要があります。