<ポイント>
◆居住することを困難にする可能性の高い事実は賃借人に告知しておくこと
◆訴訟では広範囲の費目が賃借人の損害として認められやすい
建物を賃貸する際に賃貸人は、その建物について不利な事実であっても告知しなければならないことがあります。告知しないと損害賠償の義務を負うことがあります。
告知しなければならない事実とは何かが問題となりますが、抽象的には、賃借しようとする人が賃借してそこに居住することを困難にする可能性の高いものといえます。
マンション一室の賃貸借契約を結ぶ際、1年数ヶ月前にその部屋で居住者が自殺した事実があることを、賃貸人が賃借人に告知しなかったことが不法行為となるかについて、平成26年9月18日に大阪高等裁判所で判断が示されました。
この事案は、抵当権実行により競売に付されたマンション一室を平成23年5月2日に賃貸人が競落し、仲介業者に賃貸借の仲介を依頼して平成24年8月29日に賃借人との間で賃貸借契約を結んだというものです。
①賃貸借契約を結ぶ際に賃貸人は、1年数ヶ月前に居住者がその一室で自殺した事実を知っていたのか、②知っていたとして賃借人に告知する義務があったのか、③賃借人の損害はいくらなのか、が主な争点となりました。
①については、賃貸人は、過去の自殺の事実を知らなかったと主張していました。知っていたかどうかは人の主観に関わるものですので立証の難しいことが多いです。ところがこの件では、平成23年5月5日ころに居住者が死亡したとの客観的事実のほか、9日に出勤したマンション管理人が、同マンションの補修工事をしていた職人から「7日、マンション一室に二人の人が来て一人が中に入ったところ、わあっと叫んで出てきた」と聞き、別の居住者からは「その後警察が来てその一室から、シートが掛けられた状態で何かが担架で運び出された」と聞き、賃貸人に同行してその一室の鍵を破壊した鍵屋からも「自分が鍵を破壊した後に賃貸人がその一室に入ったところ、わあという声を出して外に出てきた。」と聞いていたことが明らかとなり、これが決め手となりました。
②について裁判所は、一般に建物賃貸借契約において、その建物内で1年数ヶ月前に居住者が自殺した事実があることは、その物件を賃借してそこに居住することを困難にさせる可能性が高いといえる、したがって賃貸人は賃借しようとする人に対し、その事実を告知すべき義務があったと判示しました。
③について裁判所は、賃貸借契約を結ぶに先立って賃借人に、過去に居住者が自殺していた事実を告知していたなら、その賃借人が当該賃貸借契約を結ぶことはなく、賃貸保証料、礼金、賃料等を支払ったり、当該建物に引っ越したりすることはなかったであろうと判示しました。 そのうえで、賃借人が平成24年7月30日に仲介業者に支払った賃貸保証料、平成24年8月分の賃料(29日から31日までの日割り計算)、9月分賃料、住宅保険代、「暮らし安心サポート24」代金、防虫・消毒費、仲介手数料のいずれについても損害として認めました。
さらには引越し代やエアコン設置工事代金、賃借人が受けた精神的苦痛に対する慰謝料30万円も損害として認めました。慰謝料が発生するかはケースバイケースですが、別件において建物の入居に伴う損害額を計算するにあたっては参考になるのではないかと思います。