<ポイント>
◆法律的な見通しや、社員の状況をよく理解しておくこと
◆弁護士への相談は必須
◆合意書作成は忘れずに
最近、「これこれの事情でこの従業員に問題があり退職させたいのだが、どうすればよいか。」という内容の相談をよく受けます。
理由は様々で、営業成績が悪い、人間関係が円滑にいかない、精神疾患の疑いがあるが本人はそれを認めようとしない、私病でうつ病などに罹患したあと休んだり出勤したりを繰り返し職務に支障をきたす、就業規則上の懲戒事由があるなどです。
今回は、会社の経営上の人員削減の問題ではなく、主に社員側になんらかの問題があると思われる事案について、会社としてどのように対処すべきかをご説明したいと思います。
まず、申し上げたいのは、会社が、従業員を解雇してそれが裁判上も有効であると認められる場合は、かなり極端な場合に限定されるということです。
従業員が会社の金品を盗んだり横領したりし、その事実を本人が認めている場合は、ほとんどの場合、問題なく懲戒解雇が認められると思います。
しかし、それ以外のケースで、解雇を行うのは非常に困難です。
人間関係が円滑にいかないなどの理由で従業員を解雇することはまず不可能です。上司の業務命令に逆らうなどの事情があれば、それ自体が就業規則上の懲戒事由にあたることがあるでしょうが、そうでなければ、人間関係には相性もあり、特定の社員にのみ一方的に問題があると裁判所が認めることはまれです。
また、営業成績が悪いという点についても、他の社員に比べて営業先の割り当てが悪いという場合もあるでしょうし、会社側には社員を教育すべき義務もあり、一方的にその社員の責任とは認められにくいのが実情です。
これらのことを考えると解雇というリスクの高い手段をとるのは、得策ではありません。
裁判になり、敗訴すれば、解雇してから判決が確定しその社員が職場に復帰する日までの賃金(通常、1年から2年程度分)を支払うことになってしまいますし、仮に勝訴したとしても解雇が有効かどうかについての前提事実の整理、弁護士との打ち合わせ、裁判費用などの有形無形の負担が会社にかかってきます。
その一方で、勝訴したところで、その社員の解雇が認められたこと以外に会社が得るものは特にないのです。
以上のように解雇することは法律的なリスクが高いため、できるかぎり円満退職してもらうことが望ましいと言えます。
円満退職のための方法ですが、いくつかポイントがあります。
まず、第1に従業員が今後も働いて収入を得る必要性や、再就職の可能性がどの程度高いかを理解しておくことです。
扶養すべき家族がいる場合で、かつ、年齢がある程度高かったり特に資格がない場合、メンタル面を含めて本人の健康状態に不安がある場合などには自主的に退職させるのは、かなり困難であるということを十分に理解しておくべきです。
また、話し合いによる退職がうまくいかず、解雇せざるを得なくなった場合、法律的に解雇が有効と認められる可能性があるか、あるとすればどの程度か、という点についても十分理解しておくべき必要があります。
これまでに何度か懲戒処分を受け、今回も懲戒されるべき事由がある場合などには、裁判上解雇が認められる可能性があります。
その見通しについて、就業規則やこれまでの経緯を弁護士に相談のうえ、どのような条件で退職を勧奨し、社員が合意による退職を拒んだ場合には、強硬策である解雇という手段をとるのか、あるいは、いったん退職させることをあきらめるのか、などの対策をよく考えて決めておくべきです。
解雇が認められそうな場合や、あるいは当該社員を在職させることが会社にとって耐えがたい不利益があって少々の金銭の負担をしても退職させたい場合などには、合意による退職が成立しなければ解雇するという決断をする場合もあります。
その場合には、退職勧奨の際に、「あなたのこの行為は、就業規則の第〇条〇項により、懲戒解雇事由にあたり、〇月〇日までに任意の退職勧奨を受け入れてもらえない場合は、この理由により懲戒解雇を行います。その場合は退職金は出ません。解決金などの支払いも行いません。」などと、退職勧奨に応じなかった場合の見通しについて正確に告知しておくことが必要です。
後日の言った、言わない、の争いをさけるためそれぞれ会話を録音するなどの手段をとるのもよい方法です。
この際、社員に即決を強いるのではなく、ある程度の猶予期間を与えて、しかるべきところに相談することが可能となるよう配慮することが望ましいです。
なお、円満に退職させるには、従業員側にどの程度どのような問題があるのかにもよりますが、ある程度の解決金を和解案として支払うのが通常です。
職歴や給与、家族構成、再就職の可能性、想定される残りの稼働期間などによっても決まりますが、これまでの経験では、3か月から6か月分くらいまでが多いように思います。
解決金について、どの程度が妥当かよく聞かれるのですが、申し訳ないのですが、ケースバイケースというのが正直なところです。
その他、有給休暇の消化については、よほどの懲戒解雇事由がない限りは、できるかぎり相手の希望を聞いてあげることが通常です。
なお、絶対に忘れてはならないのは、退職合意書の作成です。
退職合意書には、退職の条件のほか、社員が会社に対して、合意書記載の内容のほか何らの債権債務のないことを確認する旨の、いわゆる清算条項を忘れずに入れてください。
他の社員や直属の上司などとのトラブルがある場合には、それらの人に対して何らの請求もしないことも入れておいたほうがよいでしょう。
いずれにせよ、従業員を円満退職させるのは、非常に難しい問題であり、一時の感情にながされ判断を誤ることがあってはいけません。
必ず事前に弁護士に相談してください。