<ポイント>
◆規程の名称は「内部通報規則」、「内部通報制度運用規程」などが一般的
◆通報の内容については最低限度の制限は必要だが、厳格にするのは好ましくない
◆通報者の範囲については非正規社員も含めるべき
今回から数回にわたり、内部通報制度の運用のルール、つまり内部通報制度の運用に関す規程について解説します。
内部通報制度は一定のルールに基いて運用されるべきことは当然ですが、そのルールは簡明で、理解しやすく、使い勝手のよいものであることが必要です。
運用が開始されたあとでも、関係者の意見に耳を傾け、よりよいものに改善していくことも忘れてはなりません。
制度を設けたのに予想外に利用度が低いという場合などは、制度(規程)のどこかに改善の余地があると考えてみることです。
規程に記載すべき基本的事項はおおむね下記のとおりです。それぞれについてコメントしていきますが、関連する説明は本連載の過去の記事にもありますので、それも参照してください。
例文も一応示しますが、あくまで例示であって、各社各様の仕組みやコンセプト、表現のヴァリエーションがあるのは当然のことです。
なお、基本的に会社(企業)を前提にした用語を用いますので、それ以外の団体や組織の場合は適切な用語に置き換えてください。
1 規程の名称
2 制度の目的
3 内部通報の内容
4 内部通報義務
5 内部通報者の範囲
6 内部通報の受理窓口
7 内部通報の方法
8 匿名通報の可否
9 通報を受けた窓口の初期対応
10 社外窓口(弁護士)から社内窓口への連絡
11 通報内容に関する事実調査
12 調査結果の報告
13 是正措置、再発防止策、対外的公表
14 通報者の保護義務
15 関係者の調査協力義務
16 関係者の守秘義務
1 規程の名称
「内部通報制度運用規程」、または、より簡潔な「内部通報規則」などが一般的かと思われます。
「内部通報」の代わりに「社内通報」、「ヘルプライン」という用語も用いられます。
上位概念である「コンプライアンスルール」とか「コンプライアンス・ライン」でもかまいません。
一般的でないその会社独特の固有名詞やニックネームでもかまいません。
それぞれの会社における他の規程類との整合性、重視するコンセプト、対外的にアピールしたい企業イメージなどを総合的に考えてネーミングしてください。
2 内部通報制度の目的
例えば次のように記載します。
「本規程は、当社の業務に関し、違法・不正行為、またはそれと疑われる行為があった場合、会社が速やかにその事実を把握、認識し、適切な是正処置を講ずることができるように、社員等から内部通報がなされることを期待する見地から、その仕組みを定め、もってコンプライアンス経営の充実、強化に資することを目的とする。」
3 内部通報の内容
内部通報を活性化させるために、通報内容に制限を加えず、「何でもあり」というのも一つのやり方ですが、本来は、「当社の業務に関する違法行為、不正行為、就業規則等社内規程に違反する行為、反倫理的行為及びそれらと疑われる行為に関する情報」というのが基本だと思われます。
これから外れるものとしては、
会社の経営方針や経営者の資質等に対する個人的な意見、批判、中傷
人事に関する不満や意見
他の社員の個人的言動に関する単なる批判や中傷
などがあり、これらは内部通報の対象外であるということを規程に明示した方がよいと思われます。
また、当然ながら、「虚偽の通報」は禁止です。その意味で、「通報は誠実でなければならない」と記載する場合もあります。但し、通報者に事実や違法性を確認することまで要求すべきではありません。それは通報受理後に事実調査すればよいことで、「違法行為ではないかと疑われる状況」で通報すれば足りるとするべきです。
しかし、それでもなお、通報者は通報に値する情報かどうかの判断がつかないことがまれではありません。それを慮れば、前に述べた「事前相談制度」を規程の中に組み込むことは望ましいことと言えます。
もっとも、規程にあまり完璧性、網羅性を求めると、条数の多い、親しみにくいものになって、かえって社員に読まれないというディメリットも出てくるので、その兼ね合いも大事です。
4 内部通報義務
これに関しては、前にも述べたとおり、規程に明示することは行き過ぎではないかという意見もあります。
しかし、本連載の立場としては、違法行為等を「見て見ぬふりをする」ことはやはり是認されるべきではないという見地から、「内部通報義務説」を採りたいと思います。
その立場からは、次のような表現となります。
「社員等は、違法・不正行為等またはそれと疑われる行為があることを知ったときは、まず当該部署内において是正・解決をはかることに努め、それが困難または不適切と思われる場合は、内部通報窓口に通報することにより、当該違法行為等の是正・防止に努めなければならず、それらを黙認してはならない。」
なお、この例文にもあるとおり、また前に何度も述べたように、内部通報を実行する前に、その部署内で、上司に直接報告や相談をするなどして「部署内解決」をはかる努力はするべきで、それを考慮せずにすぐに内部通報に訴えるのは好ましいことではありません。
5 内部通報者の範囲
内部通報制度を利用できる対象者のことで、例えば、次のように定めます。
「本内部通報制度における通報者は、当社及び当社関連会社で勤務する社員、契約社員、派遣社員、パート従業員、アルバイトとする。」
但し、子会社、関連会社の規模が大きく、独立性も高い場合は、その会社だけの独立した内部通報制度を設ける方が効率性、秘密性などの点でベターです。海外の支店や現地法人についても同様の問題があります。
いわゆる「非正規社員」を含めるかどうかについては、含めない、一定範囲を含める、全部含める、などの選択肢がありますが、コンプライアンス経営に関心を持ってもらい、協力してもらうという意味では限定しない方が適当だと思われます。
逆に、同じ趣旨から、「取引先」や「取引先の社員」まで含めることもあり得ます(実例もあります)が、多くの場合、「真実性」や「誠実性」の判断、受理後の対応や手順が困難なことからお勧めではありません。