<ポイント>
◆内部通報の実際例は多岐にわたり、あらゆる法律分野に関連する
◆労働問題、労働環境に関する通報例も多い
◆身近に起こりうる不正・不適切な行為に関する通報もよくある
前回、内部通報の内容・対象についての一般論をご説明しましたが、今回は、実際にあった、または実際にありうる内部通報の具体例を挙げてみました。内部通報制度の導入・運用を検討するに際し、参考にしていただければと思います。
なお関連する法律や、該当のおそれある犯罪名を指摘できるところはカッコ内に記載していますので、適宜ご参照ください。
〔取引に関連するコンプライアンス違反〕
・取引先から苦情を受けているのに何ら善処せず、上司に報告もしていない。
・経理部(財務部)の社員がリスクの高い金融取引を行っている。
・自社製品に欠陥があることを認識していながら誰にも伝えない社員がいる。
・取引先または消費者に対し、自社製品(またはサービス)の内容・品質につき虚偽(または誇大)の説明を行っている(景品表示法等)。
・請負工事に手抜きがあった(建築基準法等)。
〔株主総会関連〕
・株主総会のために総会屋と接触している(会社法)。
・株主総会で発言しないように株主に要請している(会社法)。
・株主総会前なので損失発生の事実の発表を先送りしようとしている(会社法・金融商品取引法)。
〔金融商品取引法関連〕
・インサイダー取引を行っている。
・ノルマ達成のため、取引先に対し「押し込み販売」を行っている(独占禁止法も)。
・架空取引・循環取引による虚偽の売上を計上している、利益目標達成のため取引先に請求書の発行を遅らせるよう強要している(下請法も)。
・仕事関係者から入手した他社のインサイダー情報を取引先に伝えている。
〔独占禁止法・下請法関連〕
・同業他社の社員とカルテル締結(または入札談合)の協議を行っている(カルテル・談合)。
・取引先である販売業者に対し、所定の再販売価格を守らせるようにしている(再販売価格維持行為)。
・取引上の優越的な地位を利用して、協賛金などの経済的な負担を負わせている(優越的地位の濫用)。
・商品製造の委託代金を理由もなく減額させている(下請法)。
・売れ残った商品を委託先に理由もなく返品している(下請法)。
〔不正競争防止法関連〕
・競合他社に機密を漏えいしている。
・会社の機密情報を不正な手段で得ようとしている。
・情報を入手するために、ライバル社員の引き抜きをしようとしている。
〔犯罪その他の違法行為〕
・業務に関し不適切不明瞭な経理処理がされている(横領罪) 。
・取引先(または下請先)と結託して、相手に不当な利益を与え、個人的にリベートを受け取っている(詐欺罪・背任罪)。
・国または地方公共団体等から補助金を不正受給している(詐欺罪)。
・行政機関からの許認可を不正な手段で取得している(各種規制法)。
・無資格者なのに資格を要件とする業務に従事している(各種規制法・各種業法)。
・顧客情報を第三者に漏えいしている(個人情報保護法)。
〔労働関連〕
・実態は派遣であるのに偽装請負関係を結んでいる(労働者派遣法)。
・法定残業時間を超える残業の強要がある(労働基準法)。
・残業時間の計算方法が間違っており指摘しても是正されない(労働基準法)。
・法定休日に出勤をしても手当がでず振替休日も指定されない(労働基準法)。
・有給休暇の申請をしても受け付けてもらえない(労働基準法)。
・会社の製品の購入を強要され代金を給与から引かれる(労働基準法)。
・タイムカードを押したあとで仕事をしている。上司も黙認している(労働基準法)。
・残業が多すぎる社員がいて体調もよくないようである。いつか事故が起こるのではないか(安全配慮義務違反)。
・工場の作業場がきちんと整理されておらず、いつか事故が起こるのではないか(安全配慮義務違反)。
・上司の叱責が厳しすぎて、業務上の指導の域を超えている(不法行為・安全配慮義務違反)。
・部署内でいじめがある。上司は何もしてくれない(不法行為・安全配慮義務違反)。
・上司が出入り業者の女性に対しセクシャルハラスメントをしている(不法行為・安全配慮義務違反)
・体調不良で欠勤遅刻が多い人に対し、上司が単に厳しく叱責して追い詰めて体調を悪化させているようにみえる(不法行為・安全配慮義務違反)。
〔その他の不正、不適切な行為〕
・社員が勤務時間中私用のために不相当な時間を費やしている。
・禁止されている兼業を行い、副収入を得ている。
・仕事中にまたは仕事外で、しつこく宗教、サイドビジネスの勧誘をする人がいる。
・会社のパソコンで業務に関係のないサイトを頻繁に見ている人がいる。
・フェイスブックに社名がわかる形で会社の悪口を書いている人がいる。
・会社の物品を私用のため持ち帰っている。
・社内禁煙場所で喫煙している。
・勤務時間中はサボっているのに、定時を過ぎてから「残業」している。
・得意先担当者に対する接待が節度を超えている。
・原材料などの仕入先担当者からの接待が節度を越えている。
・違法・不正行為があることの報告を受けたのに、何もせずに握りつぶしている。
・内部監査室(または監査役)の調査に対し虚偽の説明を行っている。
・職場の同僚からしつこくつきまとわれて困っている 。
・宴会の席で酒を強要される。
・勤務時間中サラ金業者から頻繁に電話がかかってくる。