「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」の改正案

<ポイント>
◆垂直的制限行為には、競争促進効果があることを明記した
◆再販売価格の指定についても競争促進効果がありえるが、適法な場合を限定した
◆基準を満たさない業者への転売を禁じる「選択的流通」が適法足りうることを示した

公正取引委員会は今年2月5日に「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」の改正案を公表し、パブリックコメントの募集をしています(意見提出期限は3月6日18時)。
この指針は「流通・取引慣行ガイドライン」と言われ、国内の流通・取引慣行について、どのような行為が公正かつ自由な競争を妨げ、独占禁止法に違反するのかを明らかにすることによって、事業者等の独占禁止法違反行為の未然防止とその適切な活動の展開に役立てるため、平成3年7月に公正取引委員会によって策定、公表されたものです。
この流通・取引慣行ガイドラインについて、政府の規制改革会議において、その見直しが答申され(平成26年6月13日付け「規制改革に関する第2次答申~加速する規制改革~」)、これを受けて規制改革実施計画が閣議決定されたことから、公正取引委員会は、その改正案を策定、公表するに至りました。

規制改革会議の答申では、「多様化した消費者のニーズに対応するため、メーカーと流通業者の連携を促進し、付加価値の高い商品が提供できる競争環境の整備が求められている」としたうえで、「現行の独占禁止法上の再販売価格維持行為および非価格制限行為(総称して「垂直的制限行為」という。)に係る規制は、(1)違法性の判断基準が曖昧で、事業者に萎縮効果を与えていること、(2)違法性の判断に当たり、垂直的制限効果による競争促進効果がどのように考慮されているかが不明なこと等から、競争環境の整備が妨げられている」との問題意識を示しました。
そこで、垂直的制限行為の運用基準を定める「流通・取引慣行ガイドライン」について、適法・違法性判断基準および適法な行為を明確化するよう、提言しています。

この答申、そして、これを踏まえた閣議決定を受けて、ガイドラインの改正案では、自社商品を取り扱う卸売業者や小売業者といった流通業者の販売価格、取扱商品、販売地域、取引先の制限を行う行為を垂直的制限行為として、垂直的制限行為は「競争を阻害する効果を生じることもあれば、競争を促進する効果を生じることもある」と明記されました。
そのうえで、「垂直的制限行為に係る適法・違法性判断基準」として、次の事項を総合的に考慮して判断することとなるとの考え方を示しています。
(1)いわゆるブランド間競争(メーカー間の競争及び異なるブランドの商品を取り扱う流通業者間の競争)の状況(市場集中度、商品特性、製品差別化の程度、流通経路、新規参入の難易性等)
(2)いわゆるブランド内競争(同一ブランドの商品を取り扱う流通業者間の競争)の状況(価格のバラツキの状況、当該商品を取り扱っている流通業者の態度等)
(3)垂直的制限を行うメーカーの市場における地位(市場シェア、順位、ブランド力等)
(4)垂直的制限の対象となる流通業者の事業活動に及ぼす影響(制限の程度・態様等)
(5)垂直的制限の対象となる流通業者の数及び市場における地位
この判断にあたっては、前記のような垂直的制限行為による競争促進効果も考慮すると明記しました。そして、垂直的制限行為によって新商品の販売が促進される、新規参入が容易になる、品質やサービスが向上するなどの場合には、競争促進的な効果が認められ得る、としています。

改正案がその典型例として挙げるのが、次のような場合です。

ア 流通業者は、他の流通業者がメーカーの商品について販売前に実施する販売促進活動によって需要が喚起されているならば、自らは費用をかけて積極的な販売促進活動を行わなくなり、結果として、メーカーが期待した売上げを実現できなくなるという「フリーライダー問題」が起こるとき、これを解消するために、当該メーカーが一定の地域を一流通業者のみに割り当てるなどの制限が有効となりうる(競争促進効果が認められ得る)としています。新商品、あるいは消費者からみて使用方法が複雑な商品などでは、流通業者による十分な情報提供や販売促進活動が十分に行われる必要があるのに、消費者は、そのような情報提供を行わない流通業者から買った方が安い、というような場合です。ただ、情報提供がなされなくなる結果、商品の供給が十分になされなくなる、という蓋然性がなければなりません。裏返しでいうと、一定の地域を割り当てられた流通業者が、販売促進活動をすることが、新規顧客の利益につながり、販売地域制限がない場合に比べて購入量が増大することが期待できるといった場合に限られる、ということです。その販売促進活動が、当該商品に特有のものであることなども必要です。

イ メーカーが自社の新商品について高品質であるとの評判を確保するために、高品質な商品を取り扱うとの評判を有している小売業者に限定して当該新商品を供給することが販売戦略上重要と言える場合がある、として、このような場合には、当該メーカーが取引先の更なる販売先を当該小売業者に限定することが、評判確保の上で有効となりうる、としています。

ウ メーカーが新商品発売のために、専用設備等の特有の投資を取引先に求めることがあり、このとき、その投資を行わない業者もその新商品を販売できるようになると、結果として、そのような投資が行われなくなる、として、このような場合には、当該メーカーが一定の地域を一流通業者のみに割り当てることが、特有の投資を取引先に求めるうえで有効となり得る、としています。

エ メーカーがブランドイメージを高めるために、販売に関するサービスの統一性や質の標準化を図ろうとする場合に、当該メーカーが、取引先の更なる販売先を一定の水準を満たすものに限定したり、小売業者の販売方法等を制限したりすることが、ブランドイメージを高めるために有効となり得る、としていいます。

なお、改正案は、垂直的制限行為のうち、流通業者の取扱い商品、販売地域、取引先等の制限を行う行為(非価格制限行為)は、「新規参入者や既存の競争者にとって代替的な流通経路を容易に確保することができなくなるおそれがある場合」や「当該商品の価格が維持されるおそれがある場合」に当たらない限り、通常問題となるものではないが、再販売価格維持行為は、通常、競争阻害効果が大きいことに配慮する必要があるとしています。

そして、改正案は、再販売価格維持行為に関し、まず再販売価格の拘束(メーカーによる価格指定)については、原則として公正な競争を阻害するおそれのある行為であるとしたうえ、独禁法が例外として定める「正当な理由」について具体化しました。
つまり、再販売価格の拘束によって、実際に競争促進効果が生じ、ブランド間競争が促進され、それによってその商品の需要が増大し、消費者の利益の増進が図られ、他方で、そういった効果が、再販売価格の拘束以外のより競争阻害的でない他の方法によっては生じえないものである場合において、必要な範囲及び必要な期間に限り、認められるとしました。例えば、再販売価格の拘束によって、「フリーライダー問題」の解消等を通じて競争促進効果が生じるような場合です。
再販売価格の拘束についてはこれを容認すべきとの議論もなされていましたが、公正取引委員会はこれを容認せず、この場合にも、競争促進効果がありうることを示し、正当な理由を具体化するにとどまっています。その正当な理由についても、「その競争促進効果が他の緩やかな方法によっては生じえない」場合に限られ、かつ、必要な範囲及び期間に限られるというのですから、かなり限定的といえるでしょう。ただ、これまでのガイドラインでは、再販売価格の拘束は、原則として違法とし、ごく例外的に取引先が単なる取次として機能するような場合についてのみ例外的に適法としていたので、実質的な変更も見てとれます。

また、改正案では、メーカーが単に自社商品を取り扱う流通業者の実際の販売価格や販売先等の調査(流通調査)を行うことは、指定した価格で販売しない場合に出荷停止等の不利益を課したり、そのことを示唆したりするような制限を伴わない限りは、通常は問題とならない、と適法な行為を明らかにしました。

そして、メーカーが一定の基準を満たす流通業者に限定して自社の商品を取り扱わせる場合、その流通業者に対し、メーカーが取り扱いを認めない業者への転売を禁止すること(選択的流通)について、商品を取り扱う流通業者に関して設定される基準が、当該商品の品質の保持、適切な使用の確保等、消費者にとっての利便性の観点からそれなりの合理的な理由に基づくものと認められ、かつ、他の取扱いを希望する流通業者に対しても同等の基準が適用される場合には、結果として特定の安売り業者が基準を満たさず、当該商品を取り扱うことができなかったとしても、通常、問題とならない、としました。対面販売等の義務付けが問題となった資生堂東京販売事件などの最高裁判決(「それなりの合理的な理由」と「同等の制限」の要件のもと、義務付けを適法とした)を踏まえたものですが、基準を満たさない業者への転売を禁止し、結果として安売り業者が商品を扱えなくても、「通常、問題とならない」と明示したところに意義があるといえるでしょう。

なお、規制改革会議の答申や、閣議決定で示された事項で、残っているのは、一定の基準や要件を満たす場合において規制の対象外と扱われる「セーフ・ハーバー」の適用範囲、要件等の見直しです。公正取引委員会にて検討が開始されていると思われます。