<ポイント>
◆「内部通報制度」の活用は組織内の不祥事防止の切り札
◆本連載のキーワードは「内部通報制度の活性化」
◆まず経営トップが内部通報制度の意義と効果を認識することが重要
最近、企業や団体のいわゆる「不祥事」が取りざたされることが多くなりました。今年(2013年)でも、大阪市立桜宮高校の体罰問題、全日本女子柔道の暴力問題などが大きなニュースになっています。
企業や団体においては、ごく少数であっても誰かがどこかで違法・不正行為を犯すものです。単独の場合、グループの場合、組織ぐるみ、企業ぐるみというものもあります。これらは避けられないことです。
そして、そのような事実が生じたとき、①誰がそれを発見したか、②その情報がどのように周辺や管理職、また組織全体に伝達、共有されたか、③その後問題がどのように是正、改善され、反省され、関係者の処分が検討されたか、④再発防止のためにどういう施策が講じられたか、などの点が問題となります。
そういう問題を検証していくとき、その企業や団体に「内部通報制度」が機能していたかどうかで大きな違いが生じることに気がつきます。とくに上記①及び②については決定的な違いが生じます。
「内部通報制度」に関する理解と運用を重視している企業や団体では、不祥事の発生を相当程度減らせることができます。そのため、コンプライアンス経営を目指す経営者にとってこの制度はきわめて有力な手段であり、その活用は必須の条件ということができます。
逆に、「内部通報制度」が機能せず、「内部告発」等によって組織内の不祥事がマスコミなどを通じていきなり世間の耳目を集め、批判の矢面に立たされることになると、経営者はいわゆる「内部統制システム」の不備を指摘され、場合によっては、損害賠償その他重大な責任を追及されることになります。
重要なことは、組織内で違法・不正行為が発生したことそれ自体よりも、組織としてなぜ早期にそれを発見、認識できなかったのか、そして、「組織内の自浄作用」によってなぜそれが組織内で解決することができなかったのかという点が批判されるのです。
もし「組織内の自浄作用」が働けば、いきなり世間の批判を浴びることも手厳しい信用毀損を被ることもありません。そして、適切な時期に組織自体の手によってそれを対外的に公表することによって社会からの批判は相当程度に軽減されます。かえって、その自浄能力がその企業や団体の信用を高めることもあり得ます。
この連載を始めるに当たり、まず企業や団体のトップの方々に、「内部通報制度」の意義、つまり、これが「組織内の不祥事防止のための切り札」であることを理解していただきたいと思います。
「内部統制システム」とともにこの「内部通報制度」の重要性が提唱されたのはそれほど新しいことではありません。しかし、企業や団体における認知度、活用度はまだそれほど高くないのが実情です。その大きな理由の一つが、経営トップがこの制度について必ずしも正確に認識されていない、その結果、トップダウンでこの制度の重要性が十分に提唱されていないということです。
コンプライアンス経営の理念と施策は現在や将来の企業業績と決して無関係ではありません。また、組織内不祥事によって経営自体が危機に瀕した企業や団体も少なくありません。
最近の日本柔道連盟の不祥事や大阪市立桜宮高校の体罰問題なども、歴史に汚点を残すほどの重大事件となってしまいました。
「内部通報制度」を設けている企業は少ないとはいえません。
消費者庁の「民間事業者における通報処理制度の実態調査報告書(平成22年度調査)」によれば、従業員100人以下の事業者の窓口設置率は1~2割、101人以上300人以下の事業者の設置率は3~7割、301人以上の事業者の設置率は9割以上となっています。
しかし、形ばかりで、実際に利用され機能しているかといえば、そうとはいえません。だからこそ、不祥事ニュースや内部告発が後を絶たないともいえます。
過去の企業や団体の不祥事を振り返ってみると、「内部通報制度」が機能しておれば回避できたはずであろうに、と思われるケースが少なくありません。機能しなかった理由には2つのパターンがあります。
その1つは、それぞれの不祥事の現場では、少なからぬ人たちがその事実を認識していたのに誰もその情報を上司やしかるべき関係者に伝達しなかったために、組織として何の措置も取ることができなかったケース。
もう1つは、事実を察知した人が上司やその他の関係者に内部通報したが、それを受け取った者、あるいはその者からさらに情報を受け取った者が、次に取るべき行為を取らずにそれを握りつぶした、というケースです。
このような事態がなぜ生じるのか、これを回避するにはどうすればよいか、それらの点も本連載のなかで解説させていただきます。
なお、組織内部の不祥事というのは企業(会社)だけでなく種々の団体・組織に共通する問題で、本連載でもそのすべてを対象にしています。しかし、論点により、「企業や団体」と表現したり、「会社」と表現したりして臨機応変に使い分けています。また、「違法行為」、「不正行為」、「不祥事」などの用語も厳密に使い分けていません。ほぼ同じ概念という前提でご理解ください。