TOBに関する金融商品取引法改正

<ポイント>
◆令和5年金商法改正で四半期報告書の提出義務がなくなった
◆令和6年金商法改正で義務的TOBの対象が拡大

 

近年、金融商品取引法が改正されており、令和5年11月29日と令和6年5月15日に改正法が成立しました(令和5年改正は同年11月29日公布)。
令和5年改正における重要な改正の一つは、従来、有価証券報告書提出会社(上場会社)は内閣総理大臣(金融庁)に対して、四半期報告書を提出しなければなりませんでしたが、その義務がなくなりました。
ただ、証券取引所の規定により、上場会社は四半期決算短信により四半期における業績等について開示する必要があり、これについては変更ありません。
令和6年改正における重要な改正の一つは義務的な株式公開買付け(TOB)に関するルールの変更があったことで、本稿ではその一部について解説します。公開買付けに関する大幅な改正は2006年以来ということです。

TOBとは、買付者が買付期間や買付数量、買付価格などを事前に開示した上で、証券取引所の市場外で対象会社(上場会社)の株式の大量買付けを遂行するM&A手法です。
TOBは買収対象会社の経営権を取得するために行われますが、対象会社の同意ある(友好的)TOBと同意ない(敵対的)TOBがあります。
どちらにしても、短期間で買収者の目的とする議決権を有する株式を得るためにはTOBが有効であるとともに、一定の場合には取引の情報を適切に開示することで株主に公平な株式の取引機会を設けるために金融商品取引法によりTOBによることが義務付けられています。
TOBに関する規定に違反した場合、最長で10年の懲役刑・罰金刑の刑事責任、課徴金が課せられます。
TOBが義務づけられている場合として3分の1ルール等のルールがありました。
3分の1ルールについての詳細は割愛しますが、大雑把に言って、証券取引所外取引、取引所内の立会外取引による買付け後の株式所有割合が3分1を超える場合にはTOBによることが義務付けられるというものです。
たとえば、東京証券取引所が行う立会時間外に行う取引であるToSTNeTを利用して株式を買い付けて、その結果株式所有割合が3分1を超える場合にはTOBによることが義務付けられていました。
一方で、証券取引所において立会内取引のみで株式を買い付ける場合には、買付け後の割合が3分の1超になる場合でもTOBは義務付けられていませんでした。

令和6年改正では、義務的TOBが必要となる場合として上記に記載したうち、買付け後の保有割合の3分の1が30%に引き下げられました。
合併などの重要案件を決議するためには3分の2以上の賛成が必要で、株式所有割合が3分1を超える場合にはこの決議を阻止することができますが、これは全株主が株主総会で議決権を行使する場合であり、実際には上場会社の全株主が議決権を行使することは非常に稀で、事実上30%あればこの決議を阻止しうると考えられます。諸外国でも30%とする国が多いようです。
そのため、会社の支配に大きな影響を与えうる保有割合としては30%が妥当ということになりました。
また、証券取引所の立会内取引においても上記改正後の30%ルールが適用されることになりました。
立会内取引が改正前の3分の1ルールの対象外だったのは、立会内取引は誰でも競争売買に参加できる取引で、取引内容が公表される透明な取引だったためです。
しかし、買収者が、立会内取引で短期間のうちに3分の1超を取得した場合、株主にとって必ずしも意に沿わない売却を余儀なくされる(強圧性)状況となることが懸念されるようになってきました。実際に、そのように株式を取得した買収者に対して新株予約権の無償割当てで対抗した事案で、この点が問題となり裁判所は強圧性があることから不公正発行に該当しないとしました(東京機械製作所事件)。
この改正により、取引所内外、立会内外を問わず、あらゆる買付けについて、原則として30%ルールが適用されることになりました(ただし、著しく少数の者からの買付け等の例外はあります)。
これらの改正は金融審議会のワーキング・グループの報告を受けたものですが、同報告には他にも問題点が指摘されているので、今後も金融商品取引法の改正は続くものと思われます。