<ポイント>
◆2024年6月の株主総会の事業報告に直接影響のある法改正等はない
◆開示府令の改正や東証の要請を念頭においた事業報告の記載の検討を
上場会社の多数派である3月決算の会社が株主総会の準備に入る時期となりましたが、現在のところ今年(2024年)6月の株主総会の事業報告に直接に影響のある新たな法改正等はありません。
ただ、会社法以外の法改正や東京証券取引所の要請による対応を念頭においた事業報告の記載等を検討すべきと思われます。
2023年1月31日に企業内容等の開示に関する内閣府令が改正(公布・施行)され、これに従って有価証券報告書にサステナビリティについての記載が必要となりました。
また、東京証券取引所から「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」が出され、これによる要請への対応があります。
本稿では3月決算の上場会社を念頭に、2024年6月の株主総会に関して、上記事項について述べます。
上記のいわゆる開示府令の改正については2023年5月15日掲載の拙稿「サステナビリティ情報の開示等について」で紹介していますが、有価証券報告書にサステナビリティに関して「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標及び目標」の記載(もしくは重要性に応じた記載)が求められています。
このうち、「ガバナンス」、「リスク管理」はすべての企業が開示することとなっています。
特に「リスク管理」は、会社法362条4項6号の「取締役の職務の執行が法令及び適合することを確保するための体制」その他業務の適正を確保する体制に含まれるものと捉えることができると思われます。
そのため、上記体制の決定・決議の内容や運用状況の概要を事業報告書に記載することが考えられます。
たとえば、上記開示府令の改正をうけて、サステナビリティ委員会を設置した会社もあろうと思いますが、サステナビリティ委員会の役割、活動状況及びリスクマネジメント施策内容などを記載することが考えられると思います。
また、「戦略」、「指標及び目標」では重要性に応じて記載が求められています。
ただし、人的資本(人材の多様性を含む)に関するものについては、重要性判断にかかわらず、「人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針」及び同方針に関する指標の内容並びに当該指標を用いた目標及び実績の記載は必要となっています。
特に女性管理職比率、男性の育児休業取得率、男女賃金の差異の開示は別項目での記載事項となっています。
女性の管理職比率は多くの株主総会における質問事項となっていると思われますが、それを含めた人材の多様性を含む人的資本についての取組み等を事業報告に記載することは十分に検討に値するものと思われます。
上記の「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」では「PBR1倍割れは、資本コストを上回る資本収益性を達成できていない、あるいは、成長性が投資者から十分に評価されていないことが示唆される1つの目安と考えられます。他方で、既に1倍を超えている場合でも、更なる向上に向けた目標設定を行うことが考えられます」との記述が話題になりましたが、「自社の資本コストや資本収益性を的確に把握し、その内容や市場評価に関して、取締役会で現状を分析・評価した上で、改善に向けた計画を策定・開示」する等の対応の実施が要請されています。
この要請については、機関投資家・個人株主を問わず関心が高いものと思われますので、事業報告書に記載することを検討する必要があります。
他にも2023年8月31日には「企業買収における行動指針」が公表されましたし、同年11月29日には金商法の改正により四半期報告書制度が廃止される等、株主にとって関心があると思われる法令改正等もあり、事業報告書の充実ということから各社の工夫が求められるところと思います。