<ポイント>
◆殆どの会社が自社PLと取引所のウェブサイトには掲載
◆フルセットデリバリーは約3分の2の会社が行ったが、今後は相当に減少する模様
◆一体型アクセス通知が主流の模様
株主総会資料の電子提供制度については、拙稿「株主総会資料の電子提供制度」(令和元年会社法改正シリーズの第1回記事)、「2022年6月株主総会の留意事項」、「株主総会資料電子提供制度の施行」、「株主総会資料電子提供の開始にあたって」( https://www.eiko.gr.jp/lawcat/kaisya/ ご参照)で解説してきましたが、2023年の運用状況が商事法務2344号でのアンケートの結果から明らかになったので報告します。
なお、電子提供制度は、2023年3月1日以降に開催する株主総会から実施されたので同日以降の総会に関するものです。
上場会社は、原則、株主総会の日の2週間前の日までに株主総会の日時・場所と総会の目的事項(報告事項・決議事項)と株主総会資料をアップロードしたサイトのURL等を記載した書面(いわゆるアクセス通知)を株主に送付すること、株主総会の日の3週間前の日までに総会資料をアップロードすることになります。
この電子提供措置の開始日は、上記法定期限より1日前の22日前が最多数で21.9%でした。法定期限当日である21日前も15.4%あり、23日前は11.3%とこの3日間でほぼ半数という結果でした。
掲載したウェブサイトについては、自社HPと取引所ウェブサイトが61.3%と最多数で、自社HPと取引所ウェブサイトとその他が27.6%と次に多く、この二者でほぼ9割という結果でした。
殆どの会社が自社HPと取引所ウェブサイトには掲載しているということになります。どちらかのサーバーのダウン等があっても他方が閲覧可能であれば電子提供措置の中断が生じないので、リスク軽減が図れているということだと思います。なお、アンケートに回答した1780社のうち14社に電子提供措置の中断が生じたということです。
電子提供制度は、上記アクセス通知を株主に送るだけで、インターネットを用いて株主総会資料を提供できる制度ですが、2023年の総会では混乱を避けるため等の理由で、相当な割合で従来と同様の資料の送付(フルセットデリバリー)が行われると予想されていました。
アンケートの結果では、64.8%の会社がフルセットデリバリーを行ったということです。これに対して、アクセス通知のみを郵送したのは6.1%にとどまりました。
しかし、次回の総会での予定としては、フルセットデリバリーが42.5%で、アクセス通知のみが10.3%という回答結果となっており、その差は徐々に狭まっていく可能性が感じられます。少なくとも、参考書類を省略するサマリー版の送付にとどめる会社が相当に増加することは見込めるといえます。
総会資料の電子提供制度においては、インターネットを利用することが困難な株主のために、電子提供措置事項を記載した書面の交付を請求することができることとなっていますが、議決権基準日までに書面交付請求がされなかった会社の割合は15.3%ということでした。少数ではあっても多くの会社で書面交付請求がされた模様です。
また、アクセス通知は全株主に送らなければならないところ、アクセス通知に記載すべき事項と書面交付請求に対する電子提供措置事項記載書面に記載すべき事項には重複する部分があり、重複感や上記の2つの書面を作成することによる漏れや相違を避けるものとして、両者を網羅した「一体型アクセス通知」が全国株懇連合会により制定されています。
この一体型アクセス通知を採用した割合については、67.2%というアンケート結果になっていますが、自社のアクセス通知が一体型アクセス通知であるとの認識を有していないだけの可能性も高く、それを考慮に入れると上記のパーセンテージよりは相当に高い結果となるものと思われます。
また、今後も一体型アクセス通知の採用割合は高い状態が続くと思われます。
2024年総会に向けて上記アンケート結果を参考にしつつ、自社にあった電子提供制度の運用(アクセス通知以外にどの程度の資料提供を任意に行うのか等)を決めていく必要があると思われます。