<ポイント>
◆2020年6月総会に大きな影響を与える法改正等はない
◆開示府令の改正、改正会社法の来年施行を念頭においた対応の検討を
新型コロナウィルスにより騒然とした中ではありますが、上場会社の多数派である3月決算の会社が株主総会の準備に入り始める時期となりました。
今年6月の株主総会に直接に影響のある新たな法改正等はありません。
しかし、昨年1月に公布された「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(「開示府令」といいます)のうち、昨年6月の総会前後に提出された有価証券報告書においては未適用だった事項が今年6月の総会前後に提出される有価証券報告書には適用されます。
また、昨年12月11日に公布された改正会社法が施行されるのは公布後1年6月を越えない範囲(一部は3年6月を越えない範囲)の政令で定める日ということです。つまり、遅くとも来年5月には改正会社法が施行されますので、今年の株主総会でも改正会社法を意識しておいた方がいいと思います。
開示府令に関しては、まず、有価証券報告書の「第一部企業情報」の「第2事業の状況」の「1経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」の内容が変更されました。
従来は、経営方針・経営戦略等を定めている場合にはその内容を、経営目標の達成状況を判断するための指標等がある場合にはその内容を記載することとされていました。
改正により「経営方針・経営戦略等の内容を記載すること」とされ、「経営環境(例えば、企業構造、事業を行う市場の状況、競合他社との競争優位、主要製品・サービスの内容、顧客基盤、販売網等)についての経営者の認識の説明を含め」事業の内容と関連づけて記載することとされました。
経営方針、経営戦略等は殆どの会社で決めているでしょうから、これについての改正の影響はほぼないと思われます。ただ、経営環境として例示されたような事項についての認識と事業関連性を記載するためには、それらの事項についての個別、具体的な説明が不可欠であろうと思われます。
次に上記の「2事業等のリスク」の内容について、改正により経営成績等の状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクについて、「当該リスクが顕在化する可能性の程度や時期、当該リスクが顕在化した場合に連結会社の経営成績等の状況に与える影響の内容、当該リスクへの対応策を記載するなど、具体的に記載すること。記載に当たっては、リスクの重要性や経営方針・経営戦略等との関連性の程度を考慮して、分かりやすく記載すること」とされました。
これまでは、一般的なリスクが並べられていただけで、しかも長期間ほとんど記載内容が変わっていないという開示例も少なくありませんでした。
私見ですが、改正により、リスクが顕在化する可能性の程度、時期、その場合の影響などを具体的に記載することから、各社の個性のある、また各年の認識が示されることになろうと思われます。
その他、上記の「3経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」についても、従来の計数情報をそのまま記載した定型的な内容を改めて、経営者の認識を含めた、具体的でわかりやすい記述が求められることになりました。
改正会社法では、上場等している監査役会設置会社、監査等委員会設置会社の取締役(監査等委員を除く)の報酬について、個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針を決定しなければならなくなりました(定款、株主総会決議で定められている場合は別です)。なお、報酬等の決定方針の内容は法務省令で定められることになっていますが、まだ公表されていないようです。
すでに開示府令の改正によって、有価証券報告書に報酬等の額などの算定方法の決定に関する方針の内容及び決定方法(定めていない場合にはその旨)、業績連動報酬等についての情報や役職ごとの算定方法等の情報、さらに報酬等の額などの決定に関する方針の決定権限を有する者の氏名など及び裁量の範囲を記載することになっており、多くの会社はこれに対応して報酬額の決定方法を決めていると思われます。
ただ、改正会社法が施行されれば、個人別の報酬等の決定方針を決定していなければ違法であり、決定していないことを開示すればいいという問題ではなくなります。
上記のような開示府令の改正、改正会社法の施行予定を念頭において、株主総会対策が必要です。
事業報告においては、より一層、自社の経営環境、リスクの顕在化の具体的状況やその対応策に関する説明に努め、また株主からの質問に対する回答を準備しておく必要があると思われます。
また、今後、法務省令により報酬等の決定方針の内容が定められれば、自社の定めている決定方法の変更が必要な場合もでてくると予想されます。それが6月総会の前の可能性もあろうと思いますので対応の準備が必要かと思われます。