<ポイント>
◆2014年6月の定時株主総会には重大な法改正はない
◆会社法改正を視野にいれて、社外取締役の選任に関する質問対策を
◆2015年6月の定時株主総会における対応も念頭においた対策を
多くの上場会社が定時株主総会を開催する6月末まであと3ヶ月と少しです。
過去3年間と同様に2014年6月の定時株主総会も、現在のところ新たに対応を義務付けられる大きな法改正等はありません。
しかし、社外取締役の選任に関する重要な規定を含む法改正が今期の通常国会で成立する可能性が高くなっています。現在社外取締役を選任しておらず、2014年6月の定時株主総会でも選任の予定のない会社は、株主総会対策としてこの法改正を視野に入れておく必要があります。
なお、本稿は上場会社を対象に述べています。
今期の通常国会では会社法が改正される予定ですが、改正会社法(本稿では上記改正後の会社法をこう呼ぶことにします)では、社外取締役の選任義務は規定されません。
しかし、事業年度の末日段階で社外取締役を設置していない会社は、当該事業年度の定時株主総会において「社外取締役を置くことが相当でない理由」の説明義務を負うことが規定される可能性が高いのです(改正会社法案の327条の2)。また、事業報告書にも「相当でない理由」を記載する義務も規定されると思われます。
この相当でない理由としては「社外監査役が機能している」程度の抽象的な理由では不十分といわれており、個々の会社の各事業年度における事情に応じて記載されなければならない、社外監査役が2名以上であることのみをもって相当でない理由とすることはできないことが法務省令で定められる予定です。
改正会社法は2015年4月1日に施行される可能性が高いといわれていますので、2014年6月の定時株主総会には改正会社法は適用されません。
また、2014年2月5日に東京証券取引所は有価証券上場規程等の一部改正を行い(札幌、名古屋、福岡の各取引所も同日に同内容の改正をしています)、上場会社は、取締役である独立役員を少なくとも1 名以上確保するよう努めなければならないこととなりました。
これは、今のところ努力義務を課しただけで、これに反して社外取締役を選任しなくともペナルティはありません。
しかし、株主からは改正会社法や有価証券上場規程にそって「なぜ、社外取締役の選任議案がないのか」という質問がされることが予想されます。これに対して、どう答えるかの準備は不可欠です。
本年6月の定時株主総会では社外監査役が2名以上であることを含めたガバナンス体制に問題がないことの説明をされるかもしれません。その場合、株主が上記の法務省令改正を理由に納得しないかもしれません。
ただ、私見としては、未だ改正会社法が施行されていないことから、必ずしも上記の法務省令改正にそった説明をしなくとも、説明義務違反の問題は生じないものと考えています。
上記のとおり改正会社法は2015年4月1日に施行が予定されていますが、そうすると2015年3月末時点で社外取締役を選任していない会社は、同年6月の定時株主総会に関する事業報告書に「社外取締役を置くことが相当でない理由」を記載し、同株主総会で説明しなければならないことが強く予想されます。
ただし、この段階では監査等委員設置会社が新設されていると思われますので、同年6月の株主総会で監査等委員設置会社への移行、少なくとも監査等委員である社外取締役2名の選任が議案として提出されていれば、それを理由として記載すればいいと思われます。
監査等委員会設置会社の詳細は割愛しますが、大まかにいえば、監査役で構成される監査役会に代わって、取締役で構成される監査等委員会を設置する会社です。監査等委員会設置会社に移行すれば、それまでの社外監査役を監査等委員である社外取締役に横滑りさせることも可能です。
もし、2015年6月の株主総会で監査等委員会設置会社へ移行せず、監査役会設置会社のままで社外取締役を選任しない方針であれば、改正会社法にそった「社外取締役を置くことが相当でない理由」の説明ができないとなりません。
どういう場合が「相当でない理由」となるかは難問です。私見ですが、たとえば、社内の規則で社外監査役が同意しない限り取締役会に議案を上程できないとした上で自社の特別な事情を説明することは一案かもしれません(自社の特別な事情については各社が知恵を絞る必要があるでしょう)。社外取締役が社外監査役よりガバナンスの上で優れている点の一つは取締役会で議決権を有することですので、社外取締役を選任しないのであれば、この点を解決する必要があるように思います。
一方で、社外取締役の任期は改正会社法では2年であり、社外監査役は4年ですから、社外監査役の方が長期間在任できることになり、この点はガバナンス上優れていると指摘しうると思います。
いずれにしても、ガバナンスのあり方は、本来、各社がきめることですので創意工夫を凝らすこともいいかもしれません。ただし、それほど遠くない将来、会社法により社外取締役が義務化される可能性はありますので、その際に説明が整合するようにはしておく必要があるでしょう。