<ポイント>
◆2013年6月の定時株主総会には重大な法改正はない
◆社外役員の独立性に関する情報を招集通知に記載するかどうかの検討を
◆社外取締役の選任に関する質問対策を
多くの上場会社が定時株主総会を開催する6月末まで3ヶ月をきりました。
過去2年間と同様に2013年6月の定時株主総会についても、現在のところ大きな影響を及ぼす法律等の改正はありません。
ただし、昨年の2012年5月10日に東京証券取引所は有価証券上場規程等の一部改正を行い(札幌、名古屋、福岡の各取引所も同日前後に同内容の改正をしています)、これによる影響があることに留意が必要です。この改正は2012年6月の株主総会時点で施行されていましたが、今年の株主総会ではより強く意識されるものです。
上記改正の中心は独立役員(独立役員の詳細は、当職執筆の法律情報「独立役員確保の義務化について」をご参照。)に関する情報開示の拡充です。
上場会社は、証券取引所に独立役員届出書を提出することになっていますが、有価証券上場規程等には株主総会の招集通知(事業報告、参考書類を含むものとします)への記載等と関連づけた規定はありませんでした。
しかし、上記改正により独立役員及び独立役員に指定しない社外役員の独立性に関する情報を株主総会における議決権行使に役立てやすい形で株主に提供するように努めるものとするとの規定が新設されました。
この規定は努力義務に過ぎないものですし、これに反する定時株主総会の招集、審理、決議を行ったとしても会社法上違法になるものではありません。
しかし、定時株主総会にあたってこの規定を無視することは適切ではなく、上場会社は招集通知に社外役員の独立性に関する情報を記載することを検討するべきでしょう(招集通知以外の書面の送付やウェブサイトへの掲載という方法も考えられますが、ここでは招集通知への記載を念頭におきます)。
上記の独立性に関する情報が最も有意義になるのは、独立役員候補の社外取締役、社外監査役の選任議案においてです。
そのため、参考書類の役員選任議案において独立役員に指定するときはその旨を記載することが考えられます。これについては、従来から大多数の会社が記載しているようです。
また、独立役員候補の社外取締役、社外監査役の選任議案がない場合でも、事業報告において、すでに選任されている独立役員について独立役員である旨を記載することが考えられますが、これも大多数の会社で記載されているようです。
ただし、独立役員届出書には、独立役員候補者が主要な取引先出身者であるなどの証券取引所に定めた基準に該当する場合(一般に「開示加重要件」といいます)、その旨とそれを踏まえても独立役員として指定する理由を記載する必要があります(詳細は上記記事参照)。
これらについては、従来は事業報告や参考書類(以下、事業報告等といいます)に記載していなかった会社も多かったようですが、上記改正により、今後は記載をするかどうかを検討する必要があります。
さらに、上記改正では、独立役員届出書に独立役員として指定する者が、①上場会社の取引先または出身者、②社外役員の相互就任の関係にある先の出身者、③上場会社が寄付を行っている先またはその出身者に該当する場合、原則として該当状況とその概要を記載することになりました。
特に上記①については「主要な」取引先としてだけでなく全ての取引が含まれることには注意が必要です。
これらは単に情報を記載するだけであり、それを踏まえても独立役員として指定する理由の記載は不要です。
しかし、これらに該当する場合には、同様に事業報告等への記載についての検討が必要です。
また、上記改正では、独立役員届出書に独立役員に指定しない社外役員についての独立性に関する情報の記載も必要になりました。
独立役員に指定しない社外役員については、独立役員の要件を満たしているのに独立役員に指定していない社外役員、独立役員の要件を満たしていない社外役員に分類できますが、それぞれについて、開示加重要件該当の有無、上記①から③該当状況とその概要を記載しなければなりません。
そして、これらについても同様に事業報告等への記載についての検討が必要です。
以上のとおり、努力義務ではありますが、社外役員についてよりきめ細かい情報提供が求められており、それを招集通知に記載するのか、記載するとしてどの程度にするのかを検討する必要があるでしょう。
ちなみに2012年6月の株主総会において、独立役員である旨の記載以外の情報を招集通知に記載した会社は圧倒的少数だったようです。上記のとおり東証の改正が株主総会の直近だったこともその理由の一つかと思われます。
2013年6月の株主総会においては、上記の独立性に関する情報を招集通知に記載しない場合には、株主総会で記載しない理由を質問される可能性はより高まると思われます。
その他、2012年9月7日に採択された「会社法制の見直しに関する要綱」では社外取締役の選任を義務づけることは見送られましたが、株主がその選任を求める流れは強まっているといえます。そのため、会社によっては、社外取締役を選任しない理由についてより丁寧な説明などの対応を検討することが求められるでしょう。なお、上記要綱では社外役員の要件の見直し等が行われていますが、会社法改正の時期は不明ですので本稿では触れませんでした。