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◆2011年6月の定時株主総会には重大な法改正はない
◆独立役員などの記載に関する招集通知の再検討を
◆議決権行使結果の開示内容の再検討を
今年(2011年)6月の上場会社の定時株主総会の集中日まであと約3ヶ月となりました。
今年の株主総会に関しては、現在のところは大きな影響を及ぼす法令や証券取引所規則の新たな改正はありません。
ただ、今年の株主総会では、昨年(2010年)6月の定時株主総会前の企業内容等の開示に関する内閣府令(開示府令)や証券取引所規則の改正事項について、商事法務などで発表された各社対応に関する調査結果も参考にして、昨年と同じ対応でいいかどうかもう一度検討する必要があります。
以下、昨年の大きな改正点である独立役員の確保義務、役員報酬等の開示、議決権行使結果の開示を中心に述べます。
独立役員については、証券取引所規則により、3月決算会社は昨年6月の定時株主総会終了の翌日から独立役員確保義務を負っていましたが、確保義務違反に対するペナルティはありませんでした。
しかし、今年6月の定時株主総会終了の翌日からいわゆる実効性確保措置が適用されることになり、確保義務違反に対してペナルティが課せられます。
すなわち、独立役員の確保義務違反に対して企業倫理規範違反として公表措置等のペナルティがあり、長期にわたるような場合には上場廃止もありえます。
また、誰が独立役員かは招集通知の記載事項ではありませんが、全株懇(全国株懇連合会)調査によると、回答した上場会社の半数近くが事業報告の「取締役、監査役の状況等」の欄外などに独立役員として届け出ている旨を注記しているそうです。
招集通知に誰が独立役員かを記載していない会社は、株主に対する情報開示の一環として事業報告に独立役員届出の注記すること等を検討するべきです。
特に、独立役員として届出予定の社外役員の選任議案がある場合、株主総会参考書類にその旨を記載することを積極的に検討すべきです。
上場会社は、開示府令により有価証券報告書に役員報酬等を記載して開示しなければなりません。
役員報酬等の開示については、昨年6月の総会前後では役員報酬の個別開示(1億円以上の報酬を受け取っている役員の開示)に注目が集中した感があり、同じく有価証券報告書への記載事項である役員報酬等の決定方針はあまり注目されなかったようです。
しかし、役員報酬等の決定方針にも株主が重大な関心を持っていることは十分に考えられますし、株主総会で質問があることも予想されます。
上場会社の圧倒的多数である監査役会設置会社は、招集通知に役員報酬等の決定方針を記載することを省略できますが、株主に対する情報開示の充実のために事業報告に記載することを検討するべきです。
また、商事法務の調査によれば、回答した上場会社の約20%が昨年の有価証券報告書に「決定方針はない」旨の記載をしたそうです。
「決定方針はない」旨の記載をした会社は、今年の株主総会までに決定方針を定めるか、定めないのであればその合理的な理由を株主総会で説明できるよう準備しておく必要があります。
開示府令により、上場会社は、株主総会後遅滞なく、議決権行使結果等を臨時報告書で開示しなければなりません。
開示する項目は議案(役員選任議案は候補者)ごとの賛成、反対、棄権の議決権数、可決要件、決議結果(可決か否決か及び賛成率または反対率)です。
総会当日に行使された全議決権数を集計して開示することまでは必要ありませんが、議決権数に総会に出席した株主の議決権数の一部を加算しなかった場合にはその理由を開示しなければなりません。
昨年の臨時報告書で開示された議決権行使の結果は、「事前行使分」のみ、「事前行使分」+「当日出席株主の一部」、「事前行使分」+「当日出席全株主」の3タイプに分かれています。
商事法務の調査によれば、回答した上場会社の約90%が「事前行使分」+「当日出席株主の一部」タイプとのことです。「当日出席株主の一部」とは、役員株主や大株主の議決権数のみを加算した場合が多いようです。
大多数の会社が、議決権数の一部を加算しなかった理由として「事前行使分」+「当日出席株主の一部」の議決権数で可決要件を満たしたことをあげています。
しかし、少数にとどまりますが、当日出席した全株主に「議決権行使結果確認用紙」を渡して退場時に回収する(出口調査)をするなどして「当日出席全株主」の行使した議決権の集計をし、行使結果の開示をした会社もあります。
「事前行使分」のみタイプより「事前行使分」+「当日出席株主の一部」タイプの方が圧倒的に多数である理由の一つは、できるだけ実態に近い議決権集計結果を株主に開示するためだと思われます。
議決権行使結果についてより正確な情報を株主に開示するために、徐々に出口調査方式を採用するなど「事前行使分」+「当日出席全株主」タイプが増えていくように思います。
今年の株主総会で「事前行使分」+「当日出席全株主」タイプを採用するか、今年は採用しないとしても近い将来に採用するかどうかについて、今から検討を開始しておくべきでしょう。
その他、有価証券報告書に記載することが義務づけられているコーポレート・ガバナンス体制(特に社外取締役を選任していない場合にはその理由や社外取締役に代わる社内体制等に関する考え方など)、投資目的以外の理由(いわゆる政策投資目的)で保有する株式等についても、事業報告に記載するかどうかを検討すべきです。
政策投資目的保有株式の詳細については「いわゆる政策投資目的で保有する株式の開示について」を参照してください。
なお、有価証券報告書に記載すべき政策投資目的保有株式はこれまで上位10銘柄でしたが、本年3月期の有価証券報告書(3月末決算の会社の提出期限は6月末)から上位30銘柄に拡大されることに注意しなければなりません(銀行・保険会社を除く)。