私が顧問先の企業から就業規則のチェックを依頼されたとき一番気をつけるのが、解雇事由、懲戒解雇事由がきちんと定められているか、という点です。
まれではありますが、懲戒解雇事由が全く定められていない就業規則もあり、その場合は、事由のいかんを問わず、懲戒解雇は認められないからです。
懲戒解雇とは、懲戒処分の一種であり、もっとも重い処分です。懲戒解雇処分を受けた従業員は、これにより従業員の身分を失うだけでなく、通常は(これも就業規則や退職金規程で別途定めることが必要ですが)退職金を受け取ることができなくなったり減額を受けます。
また、会社が労働基準監督署長の認定を受ければ、通常は解雇の場合に必要とされる解雇予告手当の支払いを受けることができなくなります。
では、懲戒解雇事由には、どのようなものがあるのでしょうか。
おおまかにいって、企業の服務規律に対する重大な違反行為が懲戒解雇事由になります。
ごく一例ですが、(1)無断もしくは正当な理由のない欠勤が○日以上続いたとき、(2)刑事事件で有罪の判決を受けたとき、(3)故意または重大な過失により、会社に重大な損害を与えたとき、(4)暴行、脅迫その他の不法行為により著しく社員としての体面を汚したとき、などがあげられます。
ただし、就業規則に定めた懲戒解雇事由に形式的に該当すれば全て懲戒解雇が認められるわけではありません。懲戒解雇が有効とされるには、退職金を受けとることができなかったり、懲戒解雇されたという不名誉が発生することに釣り合うほどの重大な行為及び結果が存在すると認められることが必要です。
最近、飲酒運転に伴う死亡事故などをきっかけに、飲酒運転に対する社会的な非難が高まっており、それに伴い懲戒解雇事由に「酒酔い運転や酒気帯び運転を行ったとき」と定める企業や自治体が増えているようです。
しかし、懲戒解雇の重大な効果を考えると、業務との関連性や飲酒の程度を問わず画一的にこの規定を運用することが、果たして適法なのか、疑問もあります。
このような規定の運用方法については、率直に言って、世論の動向や判例の集積をまたざるをえない部分があります。
いずれにせよ、企業として、法令を遵守した経営を行うことは非常に重要なことですが、その点を重視するあまりに従業員に対する処分が行為の重大性とのバランスを欠くことがないよう配慮することが必要です。