いわゆる銀行の貸し手責任に関して6月12日、最高裁判決がありました。
事案は次のとおりです。
銀行が顧客に対し収益物件の建築を提案し、建築会社も紹介し、建築資金を融資したが、その返済計画は、顧客が所有する収益物件の隣地を売却し、その代金を返済の相当部分に充てることを前提としていた。ところが、その隣地が売却されると収益物件が建築基準法上の容積率に違反するという問題があり、そもそも隣地の売却は見込めなかった。そのため顧客が返済に行き詰まり、収益物件について競売開始決定がなされたところ、逆に顧客が銀行と建築会社を相手取り、契約時の「説明義務違反」があったことを理由に、損害賠償(借入残元金から収益物件の評価額を控除した額の賠償)を求めた、というものです。
一審判決で大阪地裁は銀行と建築会社共に説明義務違反を認定し、請求額の約1割の損害賠償を命じましたが、控訴審判決で大阪高裁は両者について説明義務違反の主張を採用せず、顧客側は最高裁に上告をしました。
最高裁は、本件において銀行には、収益物件の底地に関する建築基準法上の問題や隣地の売却可能性を調査し、顧客に説明すべき信義則上の義務を認める余地がありうる、として、控訴審判決を破棄差し戻しました。その論理構成は次のとおりです。
一般には融資の返済計画が具体的に実現可能かは借受人が検討すべき事柄であり、本件でも、銀行担当者が隣地の売却可能性について調査、説明すべき義務が当然にあるわけではない。
しかし、本件で銀行担当者は顧客に対し、土地の有効利用を図ることを提案して建築会社を紹介した。のみならず、収益物件に関する経営企画書や投資プランを作成し、建築会社担当者と共にその内容を説明した。顧客はその説明によって、返済可能な融資だと考えて、これを受けた。しかも、顧客の主張によれば、銀行担当者は隣地の売却は確実に実現させると述べた、ということになっている。
こういった特段の事情があれば、銀行には信義則上の調査、説明義務があったと認める余地がある、と結論づけました。
銀行と顧客の間では金銭消費貸借契約があるだけで、顧客が借りたお金を返す義務を負うだけ、顧客がその金をどう使うかは銀行は知らない(少なくとも法的責任の点で)というのが原則と考えられます。
ところが、銀行はバブル期に融資を増やすため、投資や相続税対策として不動産の購入、建築を顧客に紹介、提案することが多くありました。その提案の中に事実と異なる説明をしたり、尽くしておくべき説明を尽くしていなかったりした場合には、銀行の「説明義務違反」を認定して、相当額の賠償を命じることがありうるとしたのが本判例です。この「説明義務」は金銭消費貸借上の貸し手側の「付随義務」であるとの構成が可能です。
同種の問題に関する判例が近時散見され、このことは近時の経済状況においても十分起こりうる話です。