配偶者居住権について(その3)
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<ポイント>
◆建物所有者には修繕義務はない
◆配偶者は建物を修繕することができる
◆通常の必要費は配偶者の、特別の必要費及び有益費は建物所有者の負担

前稿、前々稿で解説した「配偶者居住権」について引き続き解説します。前稿では配偶者居住権の内容、効力、第三者への対抗方法等について解説しました。以下では、配偶者居住権を取得した配偶者を単に「配偶者」、配偶者居住権の目的たる建物を「居住建物」、居住建物の所有者を「建物所有者」と言います。

1 居住建物の修繕義務について
賃貸借の場合は賃貸人が修繕義務を負いますが、配偶者居住権については建物所有者が修繕義務を負うことはありません。これは配偶者居住権が長期間存続すると想定されているところ、その期間中自ら建物を使用収益できない建物所有者に賃貸人と同様の義務を負わせることは重過ぎる負担になると考えられたためです。
修繕義務と関連する問題である居住建物に係る費用を誰が負担するのかについては3項で後述します。

2 修繕に関するルール
修繕に関するルールは以下のとおりです。
(1)配偶者は建物所有者に断ることなく居住建物の使用及び収益に必要な修繕をすることができる。
(2)建物所有者は、配偶者が相当の期間内に必要な修繕をしないときは自ら修繕をすることができる。
(3)配偶者は、居住建物が修繕を要する場合において、自ら修繕をしない場合には建物所有者に対して遅滞なくその旨を通知しなければならない(建物所有者が既に知っている場合は不要)。
建物所有者あるいは配偶者が居住建物を修繕した場合に費用をどのように清算するかは後記3項のルールに従います。

3 居住建物に係る費用について
居住建物に係る費用に関するルールは以下のとおりです。
(1)通常の必要費は配偶者が負担する。
建物の維持管理に通常必要な修繕費用や固定資産税はこの通常の必要費に該当します。
(2)特別の必要費は建物所有者が負担する。
民法改正において特別の必要費として想定されたのは風水害による建物損傷に要する修繕費です。
(3)有益費は建物所有者が負担する。
有益費とは建物の価格を増加させるために支出した費用を言います。価格が増加したかどうかは客観的に判断されます。
(4)配偶者は特別の必要費や有益費について居住建物を返還する場合に償還請求することができる。
特別の必要費については支出した金額を償還請求することができます。また、有益費については建物の価格の増加が現存する場合に限り、建物所有者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還請求することができます。
(5)(4)の償還請求は居住建物を返還してから1年以内に行わなければならない。