<ポイント>
◆配偶者居住権は居住していた建物の全部に成立する
◆配偶者居住権の存続期間は配偶者の終身の間が原則
◆配偶者居住権を第三者に対抗するためには登記が必要
前稿で解説した「配偶者居住権」について引き続き解説します。前稿では配偶者居住権が新設された経緯、配偶者居住権を利用した相続の具体例、配偶者居住権の成立要件について解説しました。
1 配偶者居住権の内容、効力
配偶者居住権の内容をまとめると、
配偶者が被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合に、⑴その居住していた建物の全部について、⑵配偶者の終身の間(ただし、別段の定めがあるときは、定められた期間)、⑶建物所有者に対して無償で使用及び収益をさせるよう請求することができる権利
ということになります。
順番に掘り下げていきます。
(1)まず、配偶者居住権の対象になるのは「建物の全部」です。例えば、配偶者が建物の一部のみに居住し、残りを居住のために使用していなかった場合や建物の一部を居住用、残りを事業用に使用していた場合などでも、配偶者居住権は建物の全体について成立します。
(2)次に、配偶者居住権の存続期間ですが、原則として配偶者の終身の間です。ただし、配偶者居住権を成立させた遺贈、遺産分割協議、または、家庭裁判所の審判で別の期間が定められたときは、その定めによります。
(3)そして、配偶者居住権の効力により、配偶者は建物を無償で使用収益できます。
使用収益にあたって配偶者は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用及び収益をしなければならないという定めがあります。ただし、従前居住のために使用していなかった部分を居住のために使用することは認められます。
また、建物所有者の承諾を得なければ、建物の改築若しくは増築をすることや第三者に居住建物の使用若しくは収益をさせることはできないという定めもあります。
配偶者がこれらの定めに違反した場合において、建物の所有者が相当の期間を定めてその是正の催告をし、その期間内に是正がされないときは、所有者は、配偶者に対する意思表示によって配偶者居住権を消滅させることができます。
2 配偶者居住権の対抗力
配偶者居住権を第三者に対抗(主張)するためには登記を備える必要があります。この登記は配偶者と建物の所有者が共同で行う必要があります。借家とは違い登記まで要求されることには注意が必要です。
登記を備えた配偶者居住権については、第三者による配偶者居住権の侵害に対して妨害排除請求をすることができます。具体的には(1)配偶者による建物の占有を第三者が妨害しているときは、その第三者に対する妨害の停止を請求すること、(2)建物を第三者が占有しているときは、その第三者に対して建物の返還を請求することができます。