<ポイント>
◆民法改正で配偶者居住権が新設された
◆配偶者居住権の新設により遺言や遺産分割の選択肢が広がった
◆配偶者居住権は配偶者が被相続人の死亡時に居住していた建物に成立しうる
民法の相続に関する規定を大幅に見直す法改正(いわゆる相続法改正)が約40年ぶりに行われました。改正の目玉の一つである「配偶者居住権」について、本稿から何回かに分けて解説します。
(配偶者居住権に関する規定は2020年4月1日に施行されます。)
1 改正の経緯
夫婦のいずれかが死亡した場合、その配偶者は住み慣れた建物での生活を継続したいと希望することが多いでしょう。旧法下でこのような希望を叶えようとする場合、配偶者がその建物の所有権を取得するか、あるいは、その建物の所有権を相続した他の相続人との間で賃貸借契約や使用貸借契約等を締結することが考えられます。
しかし、配偶者が建物の所有権を取得する場合、建物の評価額が高額なため他の遺産を取得できなくなり、その後の生活に支障をきたすおそれがあります。そうすると、残された配偶者の生活保障という観点からすると、建物は他の相続人が相続し、配偶者が他の相続人と使用貸借契約を締結するのが良いです。しかし、その場合には他の相続人との折り合いがつかず契約が締結できない、あるいは、途中で契約が解消してしまうおそれがあります。
このような問題を解消するために新設されたのが配偶者居住権です。配偶者居住権とは、夫婦のいずれかが死亡した場合に、その配偶者が相続開始時に居住していた被相続人所有の建物を、終身または一定期間、無償で使用することができる権利のことです。あくまで建物を使用することができるだけの権利なので所有権より廉価です。そのため、配偶者居住権を利用すれば、配偶者の居住権を保護するためのより柔軟な遺言や遺産分割等が可能になります。
2 具体例
これを、相続人が妻と子の2人、相続財産が自宅(評価額1000万円)と預貯金(1000万円)というケースで説明すると次のようになります。
妻が引き続き自宅に居住し続けるために自宅の所有権を相続したとします。そうすると、妻と子の法定相続分は1:1なので、妻は預貯金を相続することができません。
これに対して、例えば配偶者居住権の評価額が500万円であれば、妻は配偶者居住権と預貯金500万円を相続することができます。
3 要件
配偶者居住権が成立するための要件は、⑴被相続人の配偶者が被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、⑵遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき、あるいは、配偶者居住権が遺贈の目的とされたときです。ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合には成立しません。