<ポイント>
◆通常の業務ラインによる報告・通報・相談が重要
◆内部通報制度は部署内解決が困難な場合の手段
◆部署内解決を可能にするのは好ましい職場環境
本連載第2回において、内部通報制度とは、企業や団体において、不正行為等を知った者が、通常の業務ラインとは別に設けられた通報窓口宛にそれを通報する仕組み、と定義しました。
以下では、ここにある「通常の業務ライン」、つまり「通常の業務ラインによる報告・通報・相談」ということについて説明します。
例えば、次のような状況があるとします。
某会社の〇〇営業部△△販売課の社員Aは緊密な取引先P社と癒着し、P社に商品を販売するとき、通常価格より意図的に安く販売し、差額をP社にプールさせ、それをAの飲食代などに充てていた(Aの行為は背任罪にあたる不正行為)。
Aの同僚であるBはAがやっていることに気がついていた。ときどきお相伴にあずかることもあった。
この場合にBはどのような行動をとるべきでしょうか。
Aの問題をいきなり内部通報窓口に通報するのは必ずしも適切ではありません。まずは、自分の直属の上司である課長に報告し、または相談することを考えるべきです。課長がそれを知れば、自分の管理監督責任の範囲内のこととして、速やかに問題の解決に当たるでしょう。また、自分だけで対処できないとか、問題の範囲が大きいと感じれば、さらにその上の上司(部長)に報告・通報・相談するはずです。
これは通常の業務における管理監督または指揮命令のシステムと同じですが、不正行為発生時の対応においてもこのシステムを機能させるのが基本です。
もしそれが機能して問題解決につながれば、その部署の管理職と社員らが協力して、その部署内で発生した問題をその部署内で解決するということが可能になります。
これが「部署内解決」ということです。
しかし、この「部署内解決」が期待できない場合もあります。
例えば、管理職と部下との信頼関係が欠如している場合。部下が直属の上司に報告・相談しようとしても、相手が事なかれ主義で、かえって迷惑がる人物、取り合ってくれない人物であれば、部下はそのような上司に報告・相談はしないでしょう。
また、上司自身が不正行為等を行っている、または関わっている可能性があるような場合もあります。さらに、その部署全体が不正行為を行おうとしている場合もあります(例えば、ノルマ達成のための架空取引など)。
その場合でも上司に向かって直接抗議、説得というやり方がないでもありません。通常それは難しいでしょうが、直属の上司(課長)をとばしてその上の部長に直接報告・相談するという方法はあります。これも「部署内解決」の範疇です。
このほか、上司に問題の報告・通報を行ったが、その上司が何ら問題解決の努力を払わず、他部門にも相談や通報をせず、握りつぶすという場合もあり、この場合も「部署内解決」は達成されません。
「部署内解決」が達成できれば、内部通報は不要です。
また、「部署内解決」が可能な部署(職場)は、問題発生に対して自浄能力があるという意味で、好ましい評価を受け、また、その前提となるコミュニケーションや人間関係の風通しのよさなどが高く評価されるはずです。
これは組織として非常に大切なことです。単に不正行為等の防止のためだけではなく、一致団結してことに当たれるという職場であれば業績向上にも当然その効果があらわれるはずです。
できるだけ「部署内解決」を可能にするように、全社あげて、日常的、継続的な努力を重ねることも必要です。とくに、職場環境を健全に維持する必要があります。風通しのよい職場、部署内社員間の信頼関係の構築、管理職の資質・能力やその教育などが重要です。
ところで、本連載の目的は、「内部通報制度」の提唱・啓蒙であり、キーワードは「内部通報制度の活性化」ということでした。しかし、「部署内解決」を軽視して、どんな場合でも内部通報を利用するように奨励するものではありません。
逆に、「部署内解決」が本来のあるべき姿であると認識すべきであり、もしすべての職場でそれが可能であれば、その企業全体としても自浄機能が万全となり、不祥事により企業価値を毀損するリスクは大きく後退するということを理解すべきです。
「内部通報制度」は「部署内解決」が期待できない現実を前提として、次のステップの防御ネットとして用意されているものです。