遺留分算定における除外合意と固定合意について
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<ポイント>
◆後継者と推定相続人の合意により遺留分算定の基礎財産から除外できる
◆株式の価額を合意時の価額に固定することもできる
◆先代の生前に後継者と推定相続人が代償措置含めよく話し合うことが必要

遺留分に関するトラブルを事前に防ぐための制度が、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律で定められています。株式会社を前提にご説明します。

先代の代表者(旧代表者)が生前、後継者に株式を贈与した場合、その後継者と推定相続人(後継者も推定相続人ならば、「他の推定相続人」)が、旧代表者の生前に、書面の合意で、その株式の全部または一部について、遺留分を算定するための財産の価額に参入しないことを定めることができます(除外合意)。また、合意によって、株式の評価を、その合意時点で固定化することを定めることができます(固定合意)。後継者は推定相続人に限りません。
いずれも後継者が、その合意の対象とする株式の議決権がなくとも、総議決権の過半数の議決権を有している場合は、これらの合意ができません。生前贈与以外に売買によってあるいは出資してもともと過半数の株式を有していたような場合です。

固定合意について説明します。民法の原則によれば、遺留分算定は相続開始時点の価額によることになります。
そのため、後継者が先代から、その時点で5000万円の株式の贈与を受け、その後、その経営努力により株式が相続開始時には1億円になったという場合、その1億円をもって遺留分を計算しなければならなくなります。そこで、固定合意の制度によって後継者と(他の)推定相続人との間で、合意時点での価額で遺留分算定の基礎とする合意をすることができるようにしました。生前贈与後の経営努力による価額上昇分は後継者に帰属することを保障するものです。その価額は、弁護士、公認会計士、税理士等が相当な価額として証明することが必要です。

これらの合意をしたのち、後継者が株式を第三者に処分したり、あるいは代表者を退いたりしては合意の意味がなさなくなってしまいます。
このような場合に、(他の)推定相続人がとるべき措置を合意で定めておかなければなりません。例えば、(他の)推定相続人がその合意を解除することができる、あるいは後継者に一定額の金銭請求をすることができるというようなことです。後継者の自由度を高めるため、「(他の)推定相続人は何ら異議を述べない」といった定めもできるとされています。
また、これらの合意に際して、後継者が株式とは別の旧代表者の財産についても贈与を受けたときに、遺留分算定の基礎から除外する合意を(他の)推定相続人とすることもできます。旧代表者が個人所有する事業用の不動産などが考えられます。
他方で、後継者に有利になることばかりでは、合意が成立するのも難しい場合もあるでしょう。
そこで、法律は、後継者と(他の)推定相続人の衡平を図るための措置を定めることができるとしており、そのことも書面によってしなければなりません。
後継者が(他の)推定相続人に一定額を支払う、生活費として毎月一定額の金銭を負担する、あるいは、旧代表者の医療費を負担する等が考えられます。
また、(他の)推定相続人が、旧代表者から受けた贈与を遺留分算定の基礎から除外するとの合意をすることもできます。

上記のような合意については、経済産業大臣に申請して確認を受け、かつ、家庭裁判所の許可を得る必要があります。
家庭裁判所はその合意が当事者の全員の真意に出たものであるとの心証を得なければ許可できない、としています。「真意」によるかどうかを判断するに際しては、(他の)推定相続人が何等かの代償を得ているかどうかもポイントとなってくるでしょう。

そうすると、合意が有効となるのは、後継者と、(他の)推定相続人が、家業の存続のためよく話合い、理解を深めることを前提に、(他の)推定相続人に相応の代償措置がなされるような場合と考えられます。後継者でない(他の)推定相続人は、後継者が家業を継ぐことについて理解し、先代(旧代表者)の死亡によるトラブルを残さないように協力する必要があるように思います。