転倒事故と民事責任

<ポイント>
◆転倒事故が非常に多い事故であること
◆転倒事故事案の裁判例における請求認容率の意外な高さ
◆転倒事故の損害は高額になるケースもあること

 

1 令和3年人口動態調査(厚生労働省)によると、65歳以上の転倒・転落・墜落による死亡者数は9,509人で、交通事故の2,150人の4倍以上とされています。
特にスリップやつまずき、よろめきによる平面上での転倒による死亡者数は8,085人で8割以上を占めているとされています。
自身が居住する住宅内での転倒は、敷物の縁やコード類、床上に散乱させたもの、階段におけるものが原因となりますがこれは自身の住宅内での事故であり、訴訟にまで発展するものは多くはないものと思われます。
しかし、転倒事故が住宅以外の施設で発生したときには、床材の防滑性に問題があったとしてメーカ‐に対する製造物責任、あるいは施設の設置・管理の瑕疵に対する損害賠償責任が問われることがあります。

2 裁判例で争われた事案でも、施設別にみると、商業施設(飲食店、遊戯施設、スーパーマーケットなど)、道路、公共公益施設(学校、保養所、合同庁舎など)、住宅施設(賃貸マンションの共用部分、アパートの敷地内など)、医療介護施設(病院、介護施設など)があります。

3 裁判例をみても、事案によってさまざまな判断がありますが、総じて言えば思ったより事故に対する賠償責任を認めている事例が多いということです。訴訟になったものであるから、施設設置者や管理者の落ち度が明確な事案が多いのかとも考えられますが、請求認容率(一部認容も含みます)は上記いずれの施設類型を見ても50%~60%の間にあったという調査もあります(中嶋洋介、山本俊哉:「民事裁判例から見る転倒事故の施設類型別の特徴と施設管理者の責任」日本建築学会技術報告書第26巻、第64号、1185-1189,2020年10月)。
転倒事故は、必ずしも転倒した者の自己責任として終わる話ではありません。

4 その際に責任が認められる原因としては、設備の設置の不具合(段差や滑りやすい床材の使用)以外にも、通路床面の油汚れ、床に残った水漏れ、放置された落ちたアイスなど、転倒した者にも歩行に際して注意を払っていれば回避できたものについても施設管理者に責任が認められている事案もあります。
日常の清掃や雨天時の防滑マットの設置などの対応は、施設管理者にとって非常に重要な対処方法となってきます。
一度賠償責任が発生するとなると、負傷の程度・内容によっては非常に高額な賠償責任を負担するケースもあります。店舗で経営されている方などは、自身が加入されている保険の保証範囲や訴訟になった場合の費用負担に関する弁護士特約の有無などこの機会に確認するのが良いのではないでしょうか。