【最低資本金規制の特例措置】
資本金1円でも会社を設立できる最低資本金規制の特例措置が今年の2月に施行され、これを利用したベンチャー企業の設立が相次いでいます。
商法、有限会社法の規定では株式会社は1000万円、有限会社は300万円の資本金がなければ会社を設立できないと定められています。この最低資本金規制がベンチャー企業を始める意欲・アイデアを持ちながら十分な資金を集められない人のチャンスを奪っていると政府が判断、資本金額の規制をなくしたのがこの特例措置です。
新聞報道によると特例措置を利用して設立された会社の数は913社、うち1円の資本金の会社は23社に上ります(4月25日時点)。
今回の「法律トピックス」では、元々の最低資本金規制がどのような意味で設けられ、その規制を緩和することによってどのような効果があるのか、またどのような点が従来と変わらないのかを解説します。
【資本金の意味】
資本金は日常用語としては「事業をするのに必要な基金。元手。」の意味で使われます。
このような意味で考えれば、資本金がどれだけ必要かは事業の形態や規模によって異なり、法律によってわざわざ規制することではないと言えます。
ところが商法や有限会社法は1000万円、300万円との資本金の最低限度を定めています。
これは法律上の資本金が「債権者を保護」するためのものだからです。
株式会社は市場で株主を募り、多額の出資を得て事業資金に振り向けることによって大規模な事業を展開するための仕組みです。
他方で株式会社に対する債権者は会社の財産からしか回収することができません。株主は会社が倒産しても最悪出資が返ってこないだけで、それ以上に債権者から責任追及を受けることはありません(株主の有限責任)。そのため債権者は会社にどれだけの財産が確保されているかに大きく利害を持っています。
そこで会社に貸付をしたり、原材料を売ったりする債権者から見て、最低限度これだけの金額は会社財産として確保されていなければならないという基準が資本金です。
実際の会社の財産状態というのは日々の取引によって刻々と変化するものですが、資本金はあくまで基準ですからいったん出資を得て確定すれば、次の出資(新株発行)がない限り変化しません。
資本金の額に相当する現金等の財産は、会社設立時または新株発行時に実際に会社に対して拠出されなければならず、また利益配当のときも資本金を割り込んで配当することは許されません。
資本金の額は商業登記簿にも記載されており、債権者としては最低限度、資本金に相当する財産が会社に確保されていると期待することができます。
そして、あまりに資本金の額が小さいと債権者が安心して取引できないとの観点から平成2年の商法改正で資本金の最低額を定めたのが最低資本金規制です。
【規制の緩和】
ところがこの最低資本金規制がベンチャー企業の設立を阻んでいるとの側面がありました。
つまり優れたアイデア、起業精神を有し、他方で実際に企業を起こし、運営していくために元手がそれほどかからないにもかかわらず、法律上の資本金を準備しない限り会社を起こせないという弊害がありました。日本経済を再生させるには独自の発想・手法をもつ企業、特にIT分野の新企業が市場に登場することが待たれているのに、法律上の規制がその誕生さえ阻んでいたということです。
そこで今回の特例措置により最低限度の資本金の条件が会社設立から5年間に限って撤廃されました。
つまり会社設立時の資本金に制限がなくなるので、1円の資本金でも会社を設立することができることになりました。反面で5年以内に1000万円(株式会社)、300万円(有限会社)の資本金に見合う財産が確保されなければ会社を清算しなければなりません。
【その効果】
このような目的で実施された特例措置ですが、前述のようにこれを利用した会社の設立が相次いでいます。業種としてはソフト・情報サービスやコンサルタント業が多く、経営者の4人に一人が女性であるとの統計もあります。また30才代が占める割合が最も大きく(約34%)、次に多いのは50歳代(約25%)です。会社を退職した中高年層の奮起をも促しているようです。
このように特例措置は小さな元手で起業し、利潤を得ようとする人々の機会を促進しています。
もっとも、資本金に関して法律上の制限は一時的に撤廃されてはいるものの、会社設立時の登録免許税、定款の印紙代等の費用(株式会社では約30万円)は必要です。そして会社を運営して継続的に儲けを上げるためには現実的には資金が必要なことは当然のことです。
そのためこの特例措置の恩恵を受けやすいのは前述のソフト・情報サービス等の元来、元手が少なくても起業が可能な業種に限られているといえます。
またこれまで会社とはある程度の資本が確保されている、信用ある企業であることが期待されたのに、この特例措置のために、株式会社、有限会社という形態に対する信用が低下するのではないかという不安もあるようです。
いずれにしても、この特例措置が日本経済再生の起爆剤のひとつとなることが期待されています。