賃貸管理業務と非弁行為

<ポイント>
◆非弁行為を行うと刑事罰を科せられる可能性がある
◆賃貸管理業務には法律事務が数多く含まれる
◆法律上の権利義務に関して争いや疑義がある状況かを見極めなければならない

本稿では非弁行為(弁護士でない者が弁護士でなければできない一定の業務を行うこと。詳しくは後述。)について解説します。非弁行為について簡潔に一般的な説明をした後に、賃貸管理業務で問題になりうる点について解説します。

弁護士でない者が、報酬を得る目的で、訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して、鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を行うこと(非弁行為)は、弁護士法72条により禁止されています。これに違反した場合には、二年以下の懲役または三百万円以下の罰金に処せられます。

列挙されている事項はともかく、「その他一般の法律事件」や「その他の法律事務」の定義は必ずしも明確ではありません。
ただ、一般的には、「その他一般の法律事件」とは、法律上の権利義務に関して争いや疑義がある案件とされています。最高裁は、「交渉において解決しなければならない法的紛議が生ずることがほぼ不可避である案件」は、「その他一般の法律事件」に該当すると判示したこともあります。
また、「その他の法律事務」とは、法律上の効果を発生し、または変更する事項の処理をすることとされています。

それでは、どのような賃貸管理業務が非弁行為に該当する可能性があるかを、上記の要件を踏まえて検討していきます。

まず、賃貸管理業務は、業務として行っている以上、「報酬を得る目的」があるといえる場合がほとんどでしょう。

また、賃貸管理業務には「その他の法律事務」に該当する業務が多いです。賃貸管理会社は、賃料請求、建物明渡し、敷金返還、原状回復、賃料改定などの業務に携わることが通常ですが、これらの業務には法律事務が含まれることが多いです。

このように考えると、賃貸管理業務が非弁行為にあたるかどうかは、業務を行っている状況が「その他一般の法律事件」にあたる状況かどうかが分水嶺になることが多いといえます。そこで、賃料の督促を例に、いかなる状況であれば「その他一般の法律事件」に該当するかを考えてみます。

まず、毎月賃料を支払っている賃借人がある月だけ賃料を支払わなかった場合については、「その他一般の法律事件」に該当する状況でないことが多いでしょう。賃借人がたまたま賃料の支払いを失念しているだけの場合は、法律上の権利義務に関して争いや疑義があるとは言えないからです。
しかし、同じように賃料の滞納が1回だけでも、賃借人が賃料不払いの前に賃貸人に対して賃料減額を申し出ており、従前の金額の賃料を支払わないことを明確にしている場合は、「その他一般の法律事件」に該当する可能性が高いです。賃貸人と賃借人との間で適切な賃料額について争いが生じているからです。
また、賃料の滞納が1回だけでなく、反復継続するようになれば、それだけで「その他一般の法律事件」に該当する可能性が高くなっていきます。

このように一つの業務で考えても様々な場合分けができ、非弁行為の該当性を判断することは容易ではありません。非弁行為に該当するか判断がつかない業務がある場合には、是非とも弁護士にご相談下さい。