諸外国の内部通報制度
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◆各国の歴史・文化が内部通報制度を特色づける
◆独仏では制度を制限しようとし、米国では制度を拡大しようとしている
◆各国の例を参考にしつつ日本の企業に合った制度設計をすべき

本稿では、諸外国で内部通報制度がどのように運用されているのかを述べます。
ヨーロッパ大陸の代表であるドイツ・フランスでは、匿名通報を認めることや通報を義務づけることに消極的であり、また、通報の内容・対象を違法行為に限定しようとします。
これに対してアメリカでは、匿名通報を認めることや通報を義務づけることに積極的であり、通報の内容・対象として違法行為に限らず広く不適切な行為を含めます。

このように対照的になっている理由として、各国の歴史・文化の違いが挙げられます。
ドイツ・フランスでは、プライバシーを、人間の尊厳と密接で極めて重要なものと捉えるようです。そして、通報がなされると、被通報者が不正行為を行ったとされる情報が記録されることになるので、被通報者のプライバシー、ひいては人間の尊厳が害されるとして、通報を消極的に捉えるようです。特にドイツでは、ナチス・旧東ドイツ時代に秘密警察への通報(密告)制度が設置されていたこともあって、通報に対する抵抗感が強いといわれています。

これに対してアメリカでは、(被通報者の)プライバシーに配慮しつつ、通報を、コンプライアンスにつながるものとして積極的・肯定的にとらえる傾向があるようです。
アメリカでこのような傾向が生まれた背景には、エンロン、ワールドコムといった大手企業の不正会計処理事件が挙げられます。これらの事件を受けて、アメリカでは、企業の不正会計防止が極めて重要な課題となり、2002年にサーベンス・オクスレー法という法律が施行されました。この法律は、上院議員サーベンス氏と下院議員オクスレー氏が議会に提出して可決されたものであり、日本ではSOX法と訳されます。
SOX法では企業の内部統制や情報開示について様々な規定が定められ、内部通報制度も盛り込まれています。その内容は、アメリカ株式市場に上場する全ての企業に内部通報制度の設置を義務づけ、匿名通報手続を制度化し、通報の内容・対象として違法行為に限らず不適切な行為も含め、従業員に通報を促すものとなっています(ただし、会計関係の事項に関するものであり、内部通報制度は監査委員会により設置されるものです)。

このようにアメリカでは、内部通報制度をコンプライアンスのための重要な制度と位置づけますが、プライバシーの保護を重視するフランスでは、同国内のアメリカ系企業がSOX法に基づいて内部通報制度を設置したところ、行政機関によって否定されています。
その理由としては、不正行為を行ったとされる情報が記録されてから被通知者が直ちに知り得ない点で問題があること、匿名通報では無責任に誹謗・中傷されて一方的に負のイメージを植え付けられるおそれがあること等が挙げられました。
その後、フランスにおいて、内部通報制度に関するガイドラインが公表されましたが、その内容は、①通報の内容・対象は、放置すると企業財政が危機となるような違法行為に限ること、②従業員に通知を義務づけないこと、③匿名通報は原則として許されないこと、④被通報者に直ちに通報のあったことを通知しなければならないこととされています。

このように、各国の歴史や文化により、内部通報制度の運用が異なるのは興味深いことです。日本に目を向けると、企業の信用を大きく揺るがす事件が度々起こっていますが、内部通報制度があまり機能していないからではないでしょうか。このような現実を踏まえ、各国の制度を参考にしつつ、是非とも活性化させるべきと考えます。
そして、活性化させる方法としては、本連載でこれまで述べてきたとおり、①通報の内容・対象は、違法行為に限定せず倫理違反行為・不適切行為にまで広げ(アメリカ型)、②通報を義務づける一方(アメリカ型)、③匿名通報よりも顕名通報が望ましいと考えます(フランス型)。通報のあったことを通報者にどの段階で通知すべきかについては、事実調査が妨げられないよう、通報者が特定されないよう配慮しつつ、個別に判断していくべきと考えます。