<ポイント>
◆東証は親子上場の際の少数株主保護のための研究会を設置して規則改正を目指す
◆上場子会社の独立社外取締役として親会社所属者の選任制限や情報開示の充実を検討
本年11月29日の日経新聞によれば、東京証券取引所は親会社と子会社がともに上場する「親子上場」に関する企業統治について、ルール整備に着手するとのことです。
この記事に先立つ本年6月28日には経済産業省が「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(グループガイドライン)」を公表し、その中には上場子会社に関するガバナンスの在り方も取り上げられています。
上場子会社とは、主として、その総株主の議決権の過半数を保有する他社(親会社)がいる会社のうち上場しているものを指します。上場を維持するためには一定数以上の株主が必要ですから、上場子会社は過半数の株を保有する親会社とその外の相当数の少数派株主(「一般株主」といわれることが多いようですので本稿でもそう呼びます)とが存在することになります。
この上場親子会社の間には、取引等を通じた利益相反が起こるリスクがあり、取引条件(対価等)の設定によっては一般株主が害される可能性があるため、これに対応する必要が生じます。
また、このようなリスクは、上場子会社に限定されるわけでなく実質的に支配する株主がいる上場会社の場合にも起こりえます。
上場子会社に関しては、本年8月2日のアスクルの定時株主総会における独立社外取締役3人の再任議案について、アスクル株式の45.1%を持つヤフーに第2位株主であるプラスが同調して反対するという事件があり、日本取締役協会からも意見が公表される等物議をかもしました。
東京証券取引所では少数株主保護の在り方に関する研究会を設置することを公表しましたが、研究会の役割の中で「実質的な支配力を持つ株主(「支配的な株主」)を有する 上場会社(「従属上場会社」)を巡る最近の事例が示唆する問題点」と述べており、上記アスクルの事案が念頭にあるものといえます。
上記グループガイドラインでは、上場子会社として維持することの合理的理由と上場子会社のガバナンス体制の実効性確保について、親会社の取締役会で審議して投資家に説明する必要があるとしています。
特に上場子会社におけるガバナンス体制の在り方としては、上場子会社としての独立した意思決定を担保することが重視されています。
そのため、独立社外取締役には親会社からの独立性が求められるとともに、親会社としては独立社外取締役の選解任権限の行使に当たっては、上場子会社における実効的なガバナンス確保の観点から適切な選任がされるよう、十分に配慮することが求められるとしています。
具体的には、上場子会社の独立社外取締役については、10年以内に親会社に所属していた者を選任しないとか、一般株主の過半数の賛同を得て選任されたかどうかについて情報開示を行うことが例示されています。
上記事案では、アスクルは、ヤフーと第2位株主であるプラスの議決権を除いた社外取締役3人の再任の賛成比率が約95%であったことを公表しました。
新聞報道によれば、上場制度に関する規則を改定し、上記の親会社所属者の選任の制限や情報開示の充実を図り、来年度にもその適用を目指すということです。