新聞報道(2007年12月9日)によれば、経済産業省は東京証券取引所に対して、株主が1株で複数の議決権を行使できる「複数議決権株式」の上場を容認するよう求めるとのことです。
会社が、1株で1個の議決権がある株式と、1株で100個の議決権がある株式を発行する場合、一般に前者を普通株式、後者を複数議決権株式といい、両者とも種類株式となります。他の株主が普通株式しかない場合、1株で100個の議決権を有する株式を持っている株主は、株主総会で議案の賛否を決める際に有利となるのは当然です。
複数議決権株式は、創業者らの経営陣が会社を安定的に経営し、敵対的な買収から防衛する目的で発行されます。
しかし、会社法上、そもそも1株で100個の議決権を有するような複数議決権株式の発行が認められているのでしょうか。というのは、種類株式について定めた会社法108条には議決権の個数に違いを設ける株式に関する規定はないからです。
複数議決権株式と同様の目的を有する種類株式として議論になったものに「黄金株」があります。「黄金株」とは、きちんと定義された言葉ではありませんが、合併などの重要な案件を拒否することのできる株式と一般的には言われており、このように議決権を行使できる事項につき内容の異なる株式が発行できることは会社法108条1項3号に規定されています。
会社法上発行できない株式について東京証券取引所が上場を容認することはありえません。実は、上記のニュースの複数議決権株式とは、文字通り1株について議決権の個数の異なる株式を発行することではないと思います。会社法308条は1株1議決権の原則を規定していますが、定款により1単元1議決権とすることも認めています。これにより、ある種類の株式は1株=1単元=1議決権、別の種類の株式は100株=1単元=1議決権と定款で定めることによって、実質的に複数議決権株式を実現できるのです。この場合、前者が複数議決権株式、後者が普通株式の役割りを果たすことになります。
これまで、証券取引所は、複数議決権株式と黄金株の上場は、原則として認めていませんでした。しかし、東京証券取引所は、上場制度総合整備プログラム2007において、新規公開の場合と上場会社の場合に分けて、議決権に関する種類株式の発行について具体的なスキームを検討することにしています。上記のニュースはこの動きと軌を一にするものと思われます。
ただ、譲渡制限会社(譲渡のためには取締役会の承認を必要とする会社)でない会社では複数議決権株式も自由に譲渡できるので、経営陣としては複数議決権株式が敵対者に渡るリスクが生じます。これは黄金株を発行する場合と同じ問題です。
このリスクは、複数議決権株式に譲渡制限を付けることによって回避できますが、その場合には普通株式の上場の可否が問題となります。黄金株で同じ問題が議論された際の新聞報道によると、証券取引所は、株主総会の普通決議(過半数の賛成)により黄金株を持つ特定株主が拒否権を発動できなくなる「停止条項」を定款に盛り込むことで容認したということでした。このような制限をきらって複数議決権株式に譲渡制限を付けないとすれば、上記リスクを避けるために、複数議決権株式を譲渡する場合には普通株式に転換することが考えられ、経産省から提案されているようです。
また、新聞によりますと、複数議決権株式を発行する際、理由や目的、割当先を株主総会で開示することを義務付けることを促すそうです。複数議決権株式を導入する会社の経営陣がこのような説明責任を果たすことが重要であることは言うまでもありません。