自筆証書遺言が形式で無効とされないために
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<ポイント>
◆遺言書全面に斜線を引くことは「破棄」にあたり無効
◆氏名はもちろん日付は正確な年月日を書くこと
◆全文を自筆で書くこと

自筆で作成のうえ署名捺印した遺言書(自筆証書遺言)の全面に、その遺言者があとになって赤いボールペンで左上から右下にかけて斜線を引いた場合でもなお有効といえるのかが争われた訴訟で、平成27年11月20日、最高裁判所は無効とする判決を言い渡しました。第一審、第二審はなお有効と判断していたのでこれを覆したことになります。新聞などのマスメディアでも報道されたのでご存じの方も多いと思います。
民法は、自筆証書遺言の加除その他の変更は、一定の厳格な方式を守らなければならないと定めています。また、遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなすとも定めています。もっとも、どのような行為が「破棄した」ことにあたるかまでは定められていません。
第一審、第二審は、遺言書中の加除その他の変更にあたるとしても一定の厳格な方式を守っていないとしてなお有効と判断したようです。
これに対して、最高裁判所は、赤色のボールペンで遺言書の全面に斜線を引く行為は、その行為のもつ一般的な意味に照らせばその遺言書の全体を不要なものとし、遺言の全ての効力を失わせる意思が表れているとみるのが相当と判示しました。そのうえで「遺言者が故意に遺言書を破棄したとき」にあたり、遺言は撤回されたものとみなされるとして無効との結論を導いています。常識にかなう判断ではないかと思われます。

自筆証書遺言が無効となった事例のうちありがちなものとして、他にも様々なものがあります。
昭和52年11月29日付けの最高裁判所の判決のもととなった事案は、自筆証書に年月しか書かれていないというものでした。日まで書かれていないときは、日付の記載が必要であるとの民法所定の要件を充たしていなくて無効と判示しています。
また、昭和54年5月31日付けの最高裁判所の判決のもととなった事案は、自筆証書には「昭和四拾壱年七月吉日」と記載されるにとどまっていたというものです。裁判所は、自筆証書の日付は、暦上の特定の日を表示するものといえるように記載されるべきと判示したうえで、「昭和四拾壱年七月吉日」では暦上の特定の日を表示するものとはいえないから日付の記載を欠くとしてやはり無効と判示しています。
日付に関する判例をもう一つ挙げると、平成5年3月23日付けの東京高等裁判所の判決のもととなった事案は、実際の作成日よりも2年近く遡った日が自筆証書に記載されていたというものです。裁判所は、2年近くも遡った日を記載していることからすると単なる誤記とは考えられない、このような不実の日付の記載のある遺言書は、作成日の記載がない遺言書と同視すべきであるとして、無効と判示しています。

昭和59年3月22日付けの東京高等裁判所の判決のもととなった事案は、遺言の対象とされた不動産の目録が、司法書士が事務員に指示してタイプ印書させたものであったというものです。裁判所は、遺言書の全文の自書を要求する民法の要件を充たさないことが明らかであるので、その遺言書が遺言者の意思に基づいて作成され、全体として遺言者の真意が表現されているとしても無効と判示しています。

このように、「わずか」と思われることで遺言が無効となってしまいます。遺言書を作成する際には専門家に相談することをお勧めします。