<ポイント>
◆取得条項により会社自身が新株予約権を取得できる
◆会社法上、自己新株予約権の再利用も可能
◆ただし、行使価格・行使条件が適切か検討を要する
新株予約権には、一定の場合に発行会社が条項して自己新株予約権にできるという「取得条項」が設けられているのが通常です。
取得条項は、新株予約権の保有者が行使条件を充足しえないこととなった場合や、M&Aで買い手から新株予約権の消却を求められた場合などを想定しています。
前者の例としては、従業員として在職していることを新株予約権の行使条件としていたところ、新株予約権の割り当て後にその従業員が退職してしまったなどの場合です。
行使条件を充足しえないこととなった場合、会社法上、自動的に予約権が消滅すると捉える余地もありますが、実務上は取得条項で一旦会社が取得したうえで消却することも認められています。
自動的に新株予約権が消滅するとした場合、上記の例でいえば退職者が生じるたびに新株予約権数が変動することとなります。その都度登記申請しなければならず、会社にとっては煩雑です。新株予約権を保有する従業員が退職しても、権利行使できないまま新株予約権自体は消滅しないとすれば、そうした不都合を回避できます。
取得条項により会社が新株予約権を取得したうえで消却決議をすれば、新株予約権は消滅します。
では、会社が取得した自己新株予約権を消却せずにいわば「金庫予約権」として在庫しておき、後に改めて第三者に譲渡することはできるでしょうか?
いわば自己新株予約権の再利用ですが、会社法上は可能です。
会社が自己株式を譲渡する場合(自己株式の処分)であれば、会社法は新株発行と同様に「募集株式の発行」として手続を要求しています。
これに対して、自己新株予約権の譲渡については会社法上特に規定はありません。このため、新株予約権の内容を変更せずにそのまま譲渡するのであれば株主総会は必須ではないです。
ただ、株主構成への影響の程度などによりますが、重要事項として取締役会決議が必要となるケースが多いでしょう。
こうした新株予約権の再利用ですが、会社法上可能といっても、やはりイレギュラーなところがあります。
特に、発行時からの時間の経過、会社の状況の変化から、当初定めた行使条件、行使価格が適切か再チェックが必要です。
権利内容の変更を要する場合、結局株主総会が必要になるので、再利用によらず新規発行の手続をとるべきです。
また、いわゆる適格税制による所得税の優遇措置は新株予約権の譲渡禁止を要件とすることなどからして、自己新株予約権の再利用の場合には適用がないと考えられます。税務上の問題が生じないように有償での割当てにするなどの対処が必要です。
上場会社でも自己新株予約権の再利用をしているケースがいくつかみられますが、他の方法での資金調達が困難であるなど、やや特殊な事例のようです。