自動車保険約款にいう「車の所有、使用または管理に起因して生じた」の意味
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<ポイント>
◆対人事故は一般に「車の所有、使用または管理に起因して生じた」事故と定義される
◆社会生活上あり得る自動車の利用方法に関連して発生した事故であれば、「車の所有、使用または管理に起因して生じた」といえる

一般に自動車保険約款において対人事故は「(契約)車の所有、使用または管理に起因して生じた偶然な事故により他人の生命または身体を害すること」と定義されています。近時の裁判例(東京地方裁判所 令和4年11月30日判決)において、「車の所有、使用または管理に起因して生じた」という要件の該当性について判断が示されました。

(事案の概要)
居宅介護事業者Xが運営するデイサービス施設の利用者Yは、Yの自宅敷地内の平坦な場所に停車中のXの送迎車(以下「本件自動車」といいます)から降車しようとしたところ、左方向に上半身から地面に転落し,頭部を打ち付け死亡しました(以下「本件事故」といいます)。本件は、原告(本件事故についてXに介護保険金を支払った保険会社)が、自動車損害保険会社たる被告に対して、本件事故が対人事故に該当すると主張して、対人賠償責任保険金の求償請求をしたものです。

(争点)
本件事故が、対人事故、すなわち「車の所有、使用または管理に起因して生じた」事故に該当するかが争点になりました。
この点、被告(損保会社)は、本件自動車の構造等は一般的には何ら危険性を有するものではないこと、本件事故はX従業員が目を離したことによる介護上の注意義務違反又はYの身体的危険が顕在化したことにより発生した事故であるから、「車の所有,使用または管理に起因して生じた」ものに該当しない旨主張しました。かかる主張の前提として、被告は、「車の所有,使用または管理に起因して生じた」とは、自動車の所有、使用または管理が本来的に有する危険が顕在化することを指すと解釈していました。

(判決の骨子)
東京地裁は、社会生活上,あり得る自動車の利用方法に関連して発生したものであれば,自動車保険約款にいう「車の所有,使用または管理に起因して生じた」ものに該当するとしました。東京地裁は、「車の所有,使用または管理に起因して生じた」の意味を、被告に比べて、非常に緩やかに解釈したものといえます。
そのうえで、「居宅介護事業を営む本件事業者が介護施設の送迎に本件自動車を利用することは、社会生活上、あり得る自動車の利用方法であり、本件事故は、その送迎の際、本件自動車からの降車中に発生したものであり、その利用方法に関連して発生したものであるから、(被告の自動車保険)約款にいう「車の所有、使用または管理に起因して生じた」もの」と認めました。そして、結論として、被告は、本件事故の損害について保険金支払を行う義務を負うと認めました。