<ポイント>
◆監査・監督委員会設置会社では社外取締役2名以上が必要
◆一方で社外監査役の選任は不要
◆しかし単純な「横すべり」での選任には注意を要す
法制審議会・会社法制部会が昨年(2012年)8月にとりまとめた会社法改正要綱案では、経済界の反対などもあり社外取締役の選任義務化は見送られ、附帯決議として、上場会社が社外取締役選任に努めるべきことを証券取引所の規則で定める必要があるものとされました。
同じタイミングで東証の斉藤社長は、監査・監督委員会設置会社への移行も含めて独立した社外取締役の確保に努めるよう求めるレターを上場会社宛てに送っています。
このレターは世間的にはあまり話題になりませんでしたが、証券取引所規則(有価証券上場規程のこと)が改正される際には改めて考えてみることになるのでしょう。
監査・監督委員会は会社法改正で導入される予定の新たな制度であり、取締役3人以上で構成され、その過半数が社外取締役でなければならないものとされています。社外取締役2名以上を必要とする機関設計です。
監査・監督委員会設置会社では、委員である取締役に監査・監督の権限をあたえる一方で、監査役はおかれないこととされています。監査役会もおかれません。
取締役により構成される委員会に監督権限を委ねる点では委員会設置会社に類似しますが、執行役をおかずに代表取締役・業務執行取締役が業務執行にあたる点では監査役会設置会社に類似します。両制度の中間的なイメージです。
監査・監督委員会設置会社は社外取締役の活用を促すための新制度として提案されましたが、「日本特有のガラパゴス的制度でわかりにくい」「実際に採用されるかわからない制度を導入すべきではない」といった指摘もあり、さらに社外取締役の選任義務化が見送られることとなったことで新制度への注目度は低くなっていました。
そうした新制度に斉藤社長が言及した意味はどこにあるのでしょうか。
監査役会設置会社では社外監査役2名以上の選任が必要です。ほかにさらに社外取締役まで選任するとなれば合計3名の社外役員を選任することになります。
斉藤社長のレターは、「監査役会設置会社をやめて監査・監督委員会になれば社外監査役2名の確保は不要なので、社外取締役2名を確保すれば足りますよ」という意味です。
つまり社外役員の数は現在と同じ2名ですみますよ、ということを言っているのです。さらにいえば現在の社外監査役2名をそのまま社外取締役に横すべりさせることも想定しているのでしょう。
社外取締役をめぐる議論のなかで、適切な人材の確保が容易でないことがたびたび指摘されてきており、斉藤社長のレターはこの点に配慮したものといえます。
しかし、社外監査役を社外取締役に横すべりさせるというのはそんなに単純なことではないはずです。
監査・監督委員も取締役である以上、他の取締役と同じく取締役会での議決権行使を通じて業務執行の意思決定に直接に関与することになります。
会社側・経営者側としては、外部識者を社外監査役として迎えるのと社外取締役として迎えるのとでは受けとめ方が異なるのではないでしょうか。
また、社外役員として選任される側としても、取締役と監査役とでは負うべき責任の質が異なってきます。
さらに監査役会設置会社における常勤監査役が果たしている役割にも留意する必要があります。社外監査役は他企業での経験や専門的知見を有するとはいえ独自に会社の情報を得ることには限界があり、社内の事情をよく知る常勤監査役との連携がきわめて重要であるといわれています。
法制審議会での議論の過程では、監査役会における常勤監査役にならい監査・監督委員会においても常勤委員の選定を義務づけるかどうかが議論されました。
しかし結局、会社法改正要綱案では、内部統制システムが機能していれば常勤委員の選定が必須とまではいえないという論拠のもとに、常勤委員の選定は任意ということになりました。
内部統制システムが機能していれば常勤委員は必須でないというのは主として研究者から示された見解のようです。しかし、このような発想で常勤監査役が果たしてきた機能をカバーできるでしょうか。
単純に社外監査役2名を社外取締役2名にスライドさせればいいや、というわけにはいかず、周辺の手当てをしないといけないでしょう。
附帯決議にいう有価証券上場規程の改正は、努力義務として規定され違反してもペナルティまでは課されないとの方向性で検討されているようです。
経済界との意見調整のためなのか、思った以上に東証が有価証券上場規程を改正するまでに時間がかかっています。
ただ、東証は社外取締役選任を推進しようといいつづけてきた立場であり、法制審議会での附帯決議までなされているのですから、有価証券上場規程の改正は遅かれ早かれ行うはずです。
努力規定とはいえ社外取締役確保が有価証券上場規程のなかで謳われる予定となっていることについて、いまのところ企業側はそれほど敏感に反応していないように見受けられます。
もし、努力規定にすぎないから直ちに対策をとらなくてもいいだろうと考える企業が多数でてくれば、有価証券上場規程のソフトローとしての実効性、あるいは証券取引所の面子にもかかわることになります。
改正作業に時間がかかっているのは、もしかするとこのあたりの調整が関係しているのかもしれません。