相続における取得時効と相続回復請求権について
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<ポイント>
◆相続に関しては様々な時効が問題になる
◆相続財産の侵害については相続回復請求が可能
◆取得時効が完成した場合には相続回復請求はできない

相続に関しては、様々な時効が問題になります。今回は、所有権の取得時効(民法162条)と相続回復請求権の消滅時効(民法884条)について、近時の判例を解説します。
 
所有権の取得時効とは、簡単に言えば、他人の物を20年間占有した(≒所持した)場合に、その所有権を取得するという制度のことです。その他にも条件があるのですが、今回は割愛します。なお、占有の開始時に善意・無過失であれば、20年ではなく、10年で時効が成立します。相続において取得時効が適用される例としては、相続人でない者が自分が相続人であると誤解して相続財産を占有した場合、相続人が他の相続人がいないと誤解して相続財産を一人で占有した場合、などです。
一方、相続回復請求権とは、簡単に言えば、相続財産を侵害された相続人が相続財産の取戻しを請求する権利のことです。この権利は、相続人が相続権を侵害された事実を知った時から5年間行使しない場合、あるいは、相続開始の時から20年が経過した場合に時効により消滅します。

所有権の取得時効と相続回復請求権は、ある意味、真逆の効果を有しているといえます。取得時効では相続人でない者が相続財産を占有し、所有権を取得するのに対して、相続回復請求権は相続人以外の者による相続財産の占有等を排除することができるからです。

それでは、所有権の取得時効と相続回復請求権の消滅時効の関係はどうなるでしょうか。相続財産について所有権の取得時効が完成した場合、相続回復請求権の消滅時効が完成したかどうかに関わりなく、相続回復請求はできなくなるのでしょうか。それとも、所有権の取得時効が完成した場合でも、相続回復請求権の消滅時効が完成していなければ、相続回復請求の余地があるのでしょうか。

この点、最高裁令和6年3月19日判決は、所有権の取得時効が成立した場合には、相続回復請求権の時効が完成したかどうかに関わりなく、相続回復請求はできなくなる旨判断しました。民法が相続回復請求権について消滅時効を定めた趣旨は、相続権の帰属及びこれに伴う法律関係を早期かつ終局的に確定させることにあります。所有権の取得時効が完成したにもかかわらず、相続回復請求権の消滅時効が完成していないことにより、所有権の取得時効が妨げられるのは、前記の趣旨に反します。そこで、最高裁は上記のとおり、所有権の取得時効が成立した場合には、相続回復請求はできなくなると判断したのです。

詳細は割愛しますが、上記の最高裁の事案は、遺言書の発見が遅れ、所有権の時効取得が成立したケースでした。これはほんの一例で、相続においては、様々な事情により時効が問題になります。相続に関する時効は上記のとおり複雑ですので、お悩みの方は弁護士にご相談下さい。