相続と祭祀承継
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<ポイント>
◆祭祀財産は相続財産に含まれず、相続とは別に承継する
◆相続放棄をしても祭祀財産の承継を拒否することはできない
◆遺産分割協議の中で祭祀承継者を指定することは可能

ご家族が亡くなると相続が始まりますが、その際、故人が管理していたお墓や仏壇などの扱いに困られる方は少なくないと思います。

家系図や仏壇・位牌、墓地・墓石などの祭祀財産は、民法上、相続財産には含まれず、相続とは別に承継されると規定されています。
相続財産ではないので、原則として、遺産分割の対象とならず、承継しても相続税はかかりません。また、相続放棄をしても後述するように祭祀承継者となった場合には、祭祀財産の承継を拒否することはできず、逆に、相続放棄をしても祭祀財産だけは承継するということも可能です。

祭祀に関する権利の承継を定めた民法897条は、祭祀承継者の決定方法を次のように定めています。
まず、被相続人(故人)の指定があればそれに従います。この指定は遺言書のみならず口頭によっても可能です。
そのような指定がない場合は慣習によって決定します。一般的には、長男や長女、配偶者、葬儀において喪主を務めた者が祭祀承継者になるケースが多いと思われますが、地域的な慣習や一族に伝わる個別の慣習があればそれに従うことになります。
被相続人が祭祀承継者を指定しておらず、慣習も存在しない場合には、最終的には家庭裁判所が祭祀承継者を指定します。参考までに、東京高裁平成29年5月26日決定は、祭祀承継者の指定の判断要素として、「祭祀承継について推認される被相続人の意思、被相続人との親族関係、被相続人との生活関係上の交流の親密度、被相続人との親和性、祭祀承継の意思及び能力等」を挙げています。
いずれの方法によっても、祭祀承継者として指定された者が辞退することはできません。

祭祀承継者となれば、法要を執り行ったり、お墓や仏壇を維持・管理したりする必要が生じ、どうしてもある程度の手間と費用がかかってしまいます。祭祀財産は相続財産には含まれないため、原則遺産分割の対象とはならないと述べましたが、相続人全員の合意があれば、遺産分割協議書に祭祀承継者の指定について記載することは問題ありません。そこで、遺産分割協議において、祭祀承継者の負担を考慮して祭祀承継者の相続分を通常より多くするよう求めることが考えられます。
相続と祭祀承継は別のものですが、併せて解決しておくことによって、祭祀承継の負担を軽減するような遺産分割の方法を検討し、有利に交渉を進めることができるだけではなく、親族間のトラブルを予防することにも繋がります。相続や祭祀承継については当事者それぞれに思いや考えがあることが多く、意見の対立により紛争となりやすい分野でもありますので、ぜひ一度弁護士にご相談されることをおすすめします。