<ポイント>
◆「相続させる遺言」では遺産分割協議なしに相続人が財産を取得する
◆「相続させる遺言」について代襲相続は生じない
◆代襲相続が生じないことを念頭においた遺言書作成を
○○の土地を妻に相続させる、といった具合で「相続させる」という言い方を遺言でよく用います。これは遺言にまつわる実務上の知恵として生み出された言い回しです。
「相続させる遺言」がある場合、遺言者が亡くなることで直ちに財産移転の効力が生じます。財産の受取り人とされた相続人は遺産分割協議を行わずに財産を取得でき、不動産の登記申請も単独で行うことができます。
では、「相続させる遺言」が作成されているものの財産の受取人とされた推定相続人が遺言者より先に亡くなった場合にはどうなるでしょうか。たとえば父親が「全財産を長男に相続させる」という遺言をしていたところ、不慮の事故により長男が先に亡くなったような場合です。
もし遺言による財産受取人としての地位についていわば代襲相続が生じるとすれば、長男に代わってその子ども(遺言者からみれば孫)が将来財産を取得することになります。
こうした代襲相続を認めないとすれば、「全財産を長男に相続させる」という遺言の条項は空振りとなり、妻や他の子どもといった残る相続人たちが財産を相続することになります。
「相続させる遺言」について上記のような代襲相続を認めた下級審判例もありますが、最高裁は代襲相続を否定しました。(最高裁平成23年2月2日判決)
正確にいえば最高裁の判断は「遺言者が代襲相続させる意図を有していたとみるだけの特段の事情がないかぎりは代襲相続を認めない」というもので論理的には全面否定ではありません。
しかし、裁判官がいう「特段の事情」はあくまで例外パターンの話しであり、予防法務的な発想としてはこうした例外に賭けるべきではありません。
これから遺言を作成するのであれば、「相続させる遺言」は代襲相続されない、と理解したうえで検討することになります。
たとえば、上記の例で長男が先に亡くなった場合には長男の子どもに財産を取得させたいと遺言者が考えるのであれば「長男が私より前または私と同時に死亡した場合は、全財産を○○(長男の子)に相続させる」という条項を遺言に盛り込みます。
被相続人と相続人が同時に亡くなった場合にも同様の問題が生じるため「・・・または私と同時に死亡した場合は」という記載が必要です。
すでに遺言を作成されている方も上記のような条項を追加する必要がないか考えてみてください。遺言は書き直すことができます。
なお、上記で紹介した「○○が私より前または私と同時に死亡した場合は・・・」というパターンの条項は代襲相続させる場合以外にも用いることができます。
たとえば、財産を配偶者に相続させたいが、配偶者が自分よりも先に(または同時に)亡くなった場合には跡取りとなる特定の子どもに相続させたいというような場合などです。
最後に、遺言を作成される際には専門家へ相談されることをおすすめします。
ちょっとした言い回しにより遺言の効力に影響がでてきますし、遺言書の方式(公正証書か自筆かなど)、遺言書の保管、相続開始時の遺言執行者をどうするかなど手続き面でも検討事項が複数あります。