このところのトピックスの一つとしてみすず監査法人(旧中央青山監査法人)の解体のニュースがあります。これは、カネボウの監査が不適切であったとして業務停止命令を受けたみすず監査法人が、所属会計士の流出等を理由として事実上の解体に踏み切るというものです。
会計監査人制度は、昭和49年の商法改正で制定された商法特例法で導入されました。現在の会社法では大会社(以下は監査役会を設置している会社を念頭において述べます)は、監査役会の同意を得て提出された会計監査人(監査法人と公認会計士に限られます)選任議案が株主総会で決議されなければなりません。
また、昭和23年制定の証券取引法により上場会社に対する監査法人等の監査が導入されており、同法を引きついだ金融商品取引法でも有価証券報告書等には監査法人等の監査証明を受けることが要求されています。
会計監査人の任期は1年間ですが、いったん選任されれば、株主総会や監査役会により解任されたり、任期満了後再任しない旨の決議がされるまで自動的に再任されます。上記のように会計監査人が業務停止を受けた場合には、監査役会は一時的に職務を行う仮会計監査人の選任をしなければなりません。
監査法人の解体については、2002年のエンロン事件によって米国4大監査法人の一つであったアーサー・アンダーセンが廃業を余儀なくされたケースがあり、今回はこれと酷似しています。
エンロン事件では、アーサー・アンダーセンがエンロン首脳部の会計操作を適切に監査していなかっただけではなく、積極的に加担していたのではないかという疑いから、アーサー・アンダーセンの顧客からの会計監査契約の打ち切りが相次いだためであると言われています。
アメリカでは、エンロン事件のあとサーベンス・オクスレー法(SOX法)ができましたが、その際に監査法人の独立性が問題になりました。それは、不適切な監査が監査法人の収益構造に起因する構造的問題であるとの認識があったからです。
すなわち、監査法人は、監査対象会社との間で密接なビジネス、財務上の関係を築き、その下で行う非監査業務が監査法人の収益の柱となっていました。監査法人は、この非監査業務による収入を失うことを恐れて、監査対象会社の意向を優先し、独立した立場で監査をすることができなったというのです。
そのため、SOX法やそれに付随する規則では、監査法人が監査対象会社の非監査業務を行うことを原則禁止したり、担当する会計士のローテーション(一定期間ごとの交代)を厳しくしたり、新たにPCAOB(「公開会社会計監督委員会」という組織です。従来は監査法人等を監視する機関は会計士業界の自主規制機関であったのを、業界とは独立した機関にしました)をつくって監査法人の監視を強化する等の施策を打ち出しました。
日本においては、監査法人が監査対象会社の非監査業務の収入に依存しているということはなかったようであり、すでに監査業務と非監査業務の同時提供も禁止されています。また、日本版PCAOBである公認会計士監査委員会(金融庁に属します)は平成15年の会計士法改正によって創設されています。
それでも公認会計士の不適切な監査という事態が起こりました。新聞報道によりますと、公認会計士法を改正して粉飾決算に加担した監査法人への刑事罰による罰金を導入する案もあったようですが、これを見送ることになったようです。
今回のみすず監査法人の解体を受けて、いかなる対応がとられるのか注目されるところです。