2010年から上場会社に独立役員の確保が義務付けられます。独立役員とは一般株主と利害相反が生じるおそれのない社外取締役や社外監査役のことです。この義務は会社法や金融商品取引法などの法律ではなく、証券取引所の規則(有価証券上場規程)で定められています。
独立役員確保の義務化については、2009年9月に東京証券取引所の「上場制度整備の実行計画2009」でその方針が示され、同年12月に有価証券上場規程が改正されました(施行は同月30日)。
「上場制度整備の実行計画2009」では、上場会社に対し、一般株主保護のため、一般株主と利益相反が生じるおそれのないものと上場会社が判断する「独立役員」が存在することを求める方針が示されました。その後、各証券取引所は有価証券上場規程を改正しました。
改正後の有価証券上場規程により、上場会社は2010年3月31日時点おける独立役員の確保の状況を記載した「独立役員届出書」を同日までに証券取引所に提出しなければなりません。
また、同年3月1日以降に終了する事業年度に係る定時株主総会終了の翌日には独立役員の確保義務を負うことになり(たとえば東京証券取引所の有価証券上場規程436条の2の第1項とその付則)、株主総会終了後遅滞なく、独立役員の確保の状況についての記載を追加した「コーポレート・ガバナンス報告書」を提出しなければなりません。
さらに、2011年3月1日以後に終了する事業年度に係る定時株主総会終了後に独立役員の確保がされていない場合には、企業倫理規範違反(東京証券取引所の有価証券上場規程では436条の2違反)として公表措置等のペナルティがあり、長期にわたるような場合には上場廃止もありえます。
先に述べた独立役員の要件である「一般株主と利害相反が生じるおそれのない」とはどういうことを指すのでしょうか。これに対する明確な規定はありませんが、証券取引所は有価証券上場規程施行規則や上場管理等に関するガイドライン、コーポレート・ガバナンス報告書の記載要領の中で利害関係が生じる疑いのある者として以下の5つのカテゴリーを示しています(詳細は、たとえば東京証券取引所の上場管理等に関するガイドラインIIIの5(3)の2参照)。
(1)その上場会社の親会社や兄弟会社の業務執行者等(過去に業務執行者であった者を含みます。以下同じです)
(2)その上場会社を主要な取引先とする者やその業務執行者等
(3)その上場会社から役員報酬以外に多額の金銭等を得ているコンサルタント等
(4)その上場会社の主要株主
(5)上記の近親者やその上場会社やその子会社の業務執行者等の近親者
証券取引所は、会社が上記に該当する者を独立役員として指定しようとするときは事前相談をするよう求めています。また、会社が上記に該当する者を独立役員として指定する場合には、その者を独立役員として指定する具体的な理由を公表しなければなりません。
なお、独立役員として届けられた社外取締役や社外監査役が会社法で定められた以上の権限を与えられたり、義務を課されたりするわけではありません。
独立役員に指定された者が任期途中で退任などした場合にはどうなるでしょうか。もちろん2名の独立役員を届け出ていれば1名は独立役員が確保されているので問題は生じません。また、一般株主と利害相反が生じるおそれのない社外役員が2名いるにも関わらず1名のみを独立役員として届け出ている(そして、その者が任期途中で退任などした)場合も、別の社外役員を独立役員として届け出ればやはり問題は生じません。
しかし、一般株主と利害相反が生じるおそれのない社外役員が1名しかおらず、その者が退任などした場合には速やかに独立役員の要件をみたす社外役員を選任しなければ有価証券上場規程に違反することになります。ただ、独立役員の確保義務は証券取引所の規則によるものに過ぎません。そのため、臨時株主総会を招集して独立役員の要件をみたす社外取締役や社外監査役を選任することが要求されるわけではないと思います。
パブリック・コメントに対する東京証券取引所の回答( http://www.tse.or.jp/rules/comment/091029-jojo_2.pdf )によれば、独立役員が不在となった理由や独立役員にかかる届出の状況を考慮し、ペナルティを課すかどうかを判断するようです。
私見としては、少なくともやむを得ない事情で独立役員が欠けた場合には、独立役員届出書やコーポレート・ガバナンス報告書で不在となった旨を開示して次の定時株主総会に是正措置をとればいいのではないかと思われます。