独占禁止法の機能を強化する改正法が平成18年1月4日に施行されることが決定しました。
改正のポイントは(1)課徴金制度の見直し、(2)課徴金減免制度の導入、(3)犯則調査権限の導入、(4)審判手続の見直しの4点です。
今回は(1)、(2)の概要についてご説明します。
【そもそも課徴金とは】
入札談合や価格カルテルなどが行われた場合、公正取引委員会はこれに加わった事業者に違反行為の差し止めなど排除措置を命じます。
のみならず、課徴金納付を命じます。違反行為をやめろというだけでなく、それまでに得ていた不当な利益を吐き出させて、「やり得」を防ぐ必要があるからです。課徴金を課すと宣言し、違反者に実際にこれを課すことで、違反行為を抑制するという効果もあります。
課徴金の金額は違反行為によって実際に得た不当な利益の金額を計算するというのではなく、カルテル等の対象となった商品やサービスの過去3年以内の売上高に一定の算定率を乗じて計算します。
【課徴金制度の見直し】
この算定率が次のとおり大幅に引き上げられます。
大企業の場合(括弧内は中小企業の場合)
製造業等 小売業 卸売業
改正前 6%(3%) 2%(1%) 1%(1%)
改正後 10%(4%) 3%(1.2%) 1%(1%)
そして、過去10年以内に課徴金納付命令を受けたことのある事業者(再度の違反者)については算定率が5割増しになります。
逆に、違反行為の期間が2年未満で、公取委の立入検査等の調査を開始する日の1ヶ月前までに違反行為をやめた事業者(早期離脱者)については算定率が2割減となります。つまり、談合に関与してしまったものの、早い段階で反省してやめたという事業者にはあまり厳しくしないということです(自主的に公取委に報告すれば、後述のとおり全額免除もあり得ます)。
この課徴金とは別に刑事罰として罰金が課されることもあります。罰金には不当利得の剥奪という意味合いがなく、これを科す手続きも全く違いますが、広い意味ではペナルティとして共通しています。そこで、改正法は上述のように課徴金を厳しくしたことに伴い、課徴金と罰金が両方課される場合は、課徴金から罰金の2分の1は差し引かれることとしました。
また、課徴金が課される場合を明確にし、さらに拡張しました。カルテル・談合等のうち、対価に関する制限と、供給量を制限して対価に影響する場合とが規定されていたのに加え、これまでも解釈で認められていた「市場占有率・取引の相手方」の制限、さらに「購入量」の制限によって対価に影響する場合も課徴金の対象となる旨規定されました。
【課徴金減免制度の導入】
そして、今回の改正でさらに特徴的なのが、この「課徴金減免制度」の導入です。
つまり、カルテル・談合等に関わっていたとして、自主的にそのことを公正取引委員会に報告し、資料を提出した事業者には、その順番又は時期に応じて課徴金を免除又は減額するという制度です。例えば、会社のコンプライアンス制度がうまく機能して、カルテル・談合等の事実が企業トップの知るところとなったとしても、そこで自首して巨額の課徴金を課されることを思って申告を躊躇することになっては、違法行為は再び闇に消えてしまいかねず、課徴金を引き上げたことが裏目に出てしまいます。そこで、今こそ違法行為根絶の時と会社の背中を押すのが、この制度の趣旨です。アメリカ、EU、ヨーロッパ各国、韓国等でも導入されています。
具体的な免除額又は減額は報告の順位・時期に応じて次のとおりです。
公取委の立入検査前1番目全額免除、2番目50%減額、3番目30%減額
公取委の立入検査後30%減額
(但し、立入検査前の報告者が3者に満たない場合、最大3者まで。立入検査後20日以内に報告)
付け加えると、公取委の告発方針で立入検査前の1番目の報告者は刑事告発しないとしました。
公取委はこれらの報告をFAXによってのみ受け付けるとして、FAX番号も一つに決めました。
同着を防ぐためです。FAXの書式も決めて、公取委のホームページからダウンロードできるようにしました。
報告の段階では社名を明らかにしなければなりませんが、事前に社名を秘して担当官に相談することも認めています。
大型談合事件に関する報道がなされる昨今、課徴金に関する制度改正が適正に機能して、市場経済の維持、発展が促進されることが望まれます。