特別縁故者に対する相続財産の分与
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<ポイント>
◆法定相続人でなくても「特別縁故者」として相続財産の分与を受けられる可能性がある
◆分与を受けるためには一定の期間内に特別縁故者からの申立てが必要

 

被相続人(亡くなった人)に法定相続人がおらず遺言もないような場合、相続財産は原則として国庫に帰属することになります。
しかし、現実には、内縁の配偶者や事実上の養子のように法定相続人でなくても財産を分与することが望ましいと考えられる人や、被相続人の意思を推測するならば遺言により財産を引き継ぐ関係にあったと考えられる人が存在することから、民法には特別縁故者に対する相続財産分与の制度があります。

民法第958条の2第1項によると、特別縁故者と認められるためには、次の3つのいずれかの要件を満たす必要があります。
1 被相続人と生計を同じくしていた者
2 被相続人の療養看護に努めた者
3 その他被相続人と特別の縁故があった者
以下で詳しく見ていきます。

1 被相続人と生計を同じくしていた者
内縁の配偶者や事実上の養子、叔父叔母や継子などが具体例として挙げられます。生計を同じくするとは家計を同じにして生活することをいうため、同居している場合が典型例ですが、同居していなくても生活費等の送金が行われている場合、特別縁故者と認められる可能性があります。

2 被相続人の療養看護に努めた者
被相続人と同居はしていないものの、被相続人の病気の看護や介護など生活の世話をしていた者が該当します。ただし、看護師、介護士、家政婦など業務として報酬を得て療養看護を行った者は、通常期待される業務を超えて献身的な看護や介護を行ったなど特別の事情がない限り、特別縁故者と認められません。

3 その他被相続人と特別の縁故があった者
被相続人との間に1、2に準ずる程度の具体的かつ現実的な交渉があり、その者に相続財産を分与することが被相続人の意思に合致するとみられる程度に被相続人と密接な関係があった者をいうと解されています。
特別縁故者と認められた具体的な事例を以下で2つ挙げます。

・被相続人の甥の妻について、被相続人が甥を実家方の唯一の近親者として気にかけて親密な交流を継続し、甥夫妻を息子夫婦のように可愛がっていたところ、もし万一のことがあった場合、財産の管理処分を甥に託す遺言を書いた旨を伝えていた事例

・被相続人の従兄が、母が亡くなってから引きこもり状態となり、精神的問題から意思疎通を図ることが困難になっていた被相続人のことを気にかけ、対外的に、被相続人の父の葬儀を執り行ったり、安否確認のため被相続人宅を訪問して害虫駆除や建物修理を行ったりしていた事例

特別縁故者として相続財産の分与を受けるためには、自身が特別縁故者であると主張する者から家庭裁判所に申立てをする必要があります。相続財産清算人が選任されていないときには、まず、選任の申立てをして、法定相続人等を捜索する官報公告をしなければなりません。相続財産清算人は被相続人の債務や遺贈の清算も行い、この時点で被相続人の財産が0になった場合には手続が終了します。公告で定めた期間(最短6か月)が満了しても法定相続人等が名乗りでない場合には、法定相続人等の不存在が確定し、確定から3か月以内に相続財産分与を申し立てることが可能となります。

なお、申立人の陳述書のみで、写真や手紙など他の客観的な資料が提出されていない事案において、「客観的に…申立人らが被相続人の特別縁故者に該当することを裏付けるに認めるには十分ではなく、これらの資料だけによって直ちに…申立人らが被相続人の特別縁故者に当たるとまで認めるのは困難である」として特別縁故者にあたらないと判断した裁判例もあり、申立てに際して自身が特別縁故者であると立証するためには、申立人が支出した医療費や介護費の領収書、申立人と被相続人との付き合いのわかる写真や手紙などを証拠として集める必要があると考えられます。

以上のように、特別縁故者として財産分与が認められるために取るべき手続は煩雑であり、また、必要な資料を集めて自身が特別縁故者であることを家庭裁判所に説明することも容易ではないため、ご自身が特別縁故者に該当されるのではないかと思われる方はぜひお気軽にご相談ください。