<ポイント>
◆違法・不当な行為を助長・誘発するような不適正な方法で個人情報の利用をしてはならない
◆条文が不明確なためにガイドライン等で不適正利用の基本的な考え方や例示が示される予定
昨今の技術の進展を背景として、改正前の法律では直ちに違法ではないとしても、個人の権利利益保護の観点から看過できない方法で個人情報が利用されるケースが見られるようになりました。
そこで、改正法では、個人情報に関する国民の権利利益の意識の向上も踏まえ、違法または不当な行為を助長・誘発するおそれがある方法による個人情報の利用(本稿では不適正利用といいます)が禁止されました。
「違法」とは個人情報保護法その他の法令に違反することを意味するので一応明確といえます。一方、「不当」とは法令には違反していないが制度の目的からみて適当ではないものを意味しますが、社会通念に照らして個別具体的に判断せざるを得ず、あいまいな規定といわざるを得ません。
「助長、誘発するおそれがある」もその限界がどこまでか必ずしも明確ではありません。特に、「おそれがある」というのは可能性があると言い換えられると思いますが、どの程度まで達すれば該当するのかあいまいであり、これも社会通念に照らして判断せざるを得ません。
また、どういう状況が対象となるのかもイメージしにくいですが、たとえば、個人情報の第三者提供の場面において、提供先が提供元から受領した個人情報を違法な行為に用いた場合、当該個人情報の提供が提供先の違法な行為を助長・誘発したかどうかの評価の対象となるとされています。しかし、提供時に、提供元が提供先の違法・不当行為を認識しえなかった場合にまで不適正利用に該当すると評価されるとすれば行き過ぎですが、文言上は明らかではありません。
このように条文だけではその内容を明確に理解することはできないので、ガイドライン等により基本的な考え方や事例が開示される予定ですが、法目的に照らし看過できないような相当悪質なものを想定しているようです。
現段階では、個人情報保護委員会ホームページで公開されている令和3年2月19日付「改正法に関連するガイドライン等の整備に向けた論点について(不適正利用の禁止)」で、不適正利用の例示がされていますが、簡単にまとめると以下のとおりとなります。
(1)暴力団員等による不当要求が助長されるおそれが予想できるのに各企業の不当要求被害防止の責任者の名簿をみだりに開示する
(2)裁判所による公告等で散在的に公開されているが差別につながりかねない情報を集約・データベース化してネットに公開する
(3)違法行為を営むことが疑われる業者からの突然の接触で個人の平穏な生活がおびやかされるおそれが想定されるのに、その業者にその個人の個人情報を提供する
先述のように、あいまいな規定による規制であることから萎縮的効果の懸念もあるとされていますが、これに違反するおそれのある場合でも、不意打ち的に罰則が課されるわけではありません。
まずは個人情報保護委員会による指導・勧告といった程度の軽いところから始まり、勧告に応じない場合に命令、その命令に従わない場合に初めて罰則と段階を踏むことになっております。
規制の外縁が不明確ではありますが、ガイドライン等での早期の具体化に期待するところです。