<ポイント>
◆安価な手数料で自筆証書遺言の紛失や改ざんを防止できる
◆法務局に預けるかどうかは遺言作成者の自由
◆遺言の内容面や有効性のチェックまでは期待できない
法務局に自筆証書遺言を預けておくことができるようになりました。
この遺言書保管制度は遺言の紛失や改ざんを防ぐための制度として2018年相続法改正とあわせて立法化され、法務局での保管手続が今年7月に開始しました。
保管申請の手続は、遺言作成者の住所地、本籍地、不動産所在地のいずれかを管轄する法務局に予め予約したうえで行います。保管手数料は遺言1通につき収入印紙3900円です。
保管申請の手続は遺言作成者本人が法務局に出向いて行わなければいけません。代理人による手続は不可とされています。
遺言作成者が亡くなった後も50年間は法務局で遺言が保管されます。
法務局で保管されている自筆証書遺言については、公正証書遺言と同じく、相続発生後に家庭裁判所で検認手続する必要がありません。相続発生後の手続きが一部簡略化されます。
対象となる遺言は自筆証書遺言のみで、法務局での手続に先立って作成しておく必要があります。ホチキス止めせずに提出すること、余白の寸法が指定されていることなど形式面についていくつか留意点があります。末尾に挙げた法務局のパンフレットを参照していただくとよいでしょう。
注意点としては、法務局では署名、押印など外形面のチェックはするものの、遺言内容やその法的有効性のチェックはしてくれないことです。思い違いがないかなどの意向確認も法務局ではしてくれません。遺言の内容に関しては弁護士へ相談されることをおすすめします。
この手続を利用するかどうかは遺言作成者の自由です。遺言を自分の手許で保管したり、弁護士など専門家へ預けておくことも従来どおり可能です。
また、法務局へ遺言を預けた後でも、遺言作成者自身が手続すれば法務局から遺言書を返却してもらうこともできます(保管申請の撤回)。遺言をやはり自分で保管したい、あるいは破棄して書き直したいという場合には返却の手続をしてください。
遺言作成者の生前は、推定相続人が遺言の有無・内容について法務局に問い合わせることはできません。
遺言作成者が亡くなった後は、相続人が法務局に問い合わせて遺言の有無や内容を確認できます。相続人のうち誰かが法務局で遺言内容の確認手続を行った場合、法務局から他の相続人へ「法務局で遺言が保管されている」と通知されることになっています。
※死亡時の通知についての注意
現時点での注意点として、遺言作成者が亡くなっても法務局から相続人へ当然に通知されるわけではありません。
遺言作成者は法務局での保管申請時に、自分の死亡時に相続人などのうち1名に対して法務局から通知されるよう申し出ておくことができますが、この死亡時通知は現時点では実際には運用されておらず、法務局によれば来年度以降に運用開始する予定とのことです。
以上より、遺言の存在を相続人に知らせるための方策については、法務局に頼らずに検討しておく必要があります。
公正証書遺言との比較をしてみます。
法務局での自筆証書遺言保管と公正証書遺言は、いずれも公的機関により遺言が管理されるため紛失や改ざんの心配がなくなること、後の検認手続が不要となることは共通です。
相違点としては、公正証書遺言では公証人による文面のチェックや意向確認があるため遺言の有効性をめぐる争いが事実上生じにくくなるのに対して、法務局での遺言書保管制度ではこうした機能は期待できません。法務局では遺言の内容にわたるチェックは行わないためです。
費用面については、公正証書遺言では遺産内容などに応じて公証人の手数料が高額となるのに対して、法務局での遺言書保管制度では収入印紙3900円ですみます。
ご参考に、遺言書保管制度に関する法務局のパンフレットを次のURLでみることができます。
http://www.moj.go.jp/content/001322593.pdf