<ポイント>
◆大阪府、大田区では特区を活用した民泊を認める条例が成立
◆厚労・国交両省は省令改正による全国での民泊解禁を検討
◆マンションの管理組合では民泊の禁止の可否が今後議論となる
インターネットを通じ宿泊者を募集する一般住宅、別荘等を活用した「民泊」(みんぱく)サービスが実態として拡がっているようです。
他方で、旅館業法では旅館業、すなわち「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」(設備等の違いにより、ホテル営業、旅館営業、簡易宿所営業及び下宿営業の4種類が規定されています)を経営するには、都道府県知事(場合により市区長。以下同じ)の許可を受けなければならないと定められています。これに違反した場合は、6か月以下の懲役または3万円以下の罰金に処せられます。
民泊で利用される住宅等が、上記4種類の営業に相当する設備を備えていなければ、旅館業法違反のおそれがあります。
これに対して、外国人が国内に滞在するニーズに対応して、国家戦略特別区域法に基づいて国が指定した国家戦略特別区域(特区)における「外国人滞在施設経営事業」が認められています。
政令の定める要件に該当することが都道府県知事によって認定されれば、旅館業法の適用が除外されることとされています。
これを受けて、既に「関西圏」として大阪府全域が特区として受けていた大阪府では、今年10月27日「大阪府国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業条例」が可決成立しました。
保健所を独自に設置する政令指定都市・中核市(大阪、堺、高槻、東大阪、豊中、枚方の各市)を除く府内の37市町村が対象です。来年2016年4月に施行の見通しとのことです。
また、東京都大田区でも特区を利用した同様の「民泊」条例案が12月7日、可決成立し、こちらは大阪府より早く来年1月からの実施が見込まれているとのことです。
京都市でも、民泊に対応するプロジェクトチームを立ち上げ、実態調査を始めたとの報道がなされています。
大阪府や大田区の場合、特区を活用するものなので、旅館業法の特例を定める国家戦略特別区域法13条と政令の範囲内でのみ民泊が認められます。
したがって、大阪府でも施設使用期間は7日以上でなければならないとされています。
ただ、観光庁による平成25年の調査でも、大阪訪問外国人の滞在日数自体6日以内が70%を占めています。
果たして7日以上の要件を課す民泊が外国人の滞在ニーズにあっているのか、特区で認定される民泊が果たして使い勝手がいいのかは疑問のあるところです。
また、条例が定められる範囲を定める国家戦略特別区域法施行令12条によれば、
居室について(三号)、
イ 一居室の床面積は25平方メートル以上であること(例外有)。
ロ 出入口及び窓は、鍵をかけることができるものであること。
ハ 出入口及び窓を除き、居室と他の居室、廊下等との境は、壁造りであること。
ニ 適当な換気、採光、照明、防湿、排水、暖房及び冷房の設備を有すること。
ホ 台所、浴室、便所及び洗面設備を有すること。
ヘ 寝具、テーブル、椅子、収納家具、調理のために必要な器具又は設備及び
清掃のために必要な器具を有すること。
との要件、ほかにも、
四 施設の使用の開始時に清潔な居室を提供すること。
五 施設の使用方法に関する外国語を用いた案内、緊急時における外国語を用
いた情報提供その他の外国人旅客の滞在に必要な役務を提供すること。
六 当該事業の一部が旅館業法第2条第1項に規定する旅館業に該当するもの
であること。
との認定の要件が定められています。
このうち、六号の趣旨が一見するとよく分かりません。つまり、旅館業法の適用除外が認められるとしながら、事業の一部が旅館業に該当することを求めているからです。おそらくは旅館業法が定める「簡易宿所」営業に該当する部分がないといけないといっているようです。
このようにみてくると、特区での民泊はそれなりにハードルも高く、実態をこれに合わせていかないとということになりそうです。
都道府県知事の認定がなされれば、認定事業者の事務所や民泊の施設は立ち入り調査を受け得るということになります。
大阪府、大田区でも、近隣とのトラブル防止などのため、ガイドラインを検討しているところのようです。
逆に認定が受け入れられなければ、旅館業法違反とされるリスクがあります。
京都市の許可を受けず、民泊を違法に行った疑いが強まったとして、京都府警が11月5日、旅館業法違反容疑で旅行会社の顧問、旅館代行業者に対して、事情聴取を始めたとの報道がなされています(同日付産経ニュースより)。
この報道によれば、7月25日から10月2日までの間に京都市右京区のマンションで、44室のうち36室を客室として使用、無許可で観光客300人を有料で宿泊させたとのことです。
他方で、厚生労働省と国土交通省が民泊を来年4月にも解禁する方針との報道がなされています(11月22日付け日本経済新聞電子版)。
旅館業法はホテル、旅館、簡易宿所、下宿の4種類の営業に該当するものに限って、旅館業として許可の対象とすると定めています。
11月27日付け日経新聞電子版によれば、国交・厚労両省は民泊を客室数の制限がないカプセルホテルなど「簡易宿所」の一種として位置づけ、面積基準などを緩める案を軸に検討しているとのことです。
参考として、簡易宿所営業の施設の構造設備の現行の基準を挙げておきます。
一 客室の延床面積は、33平方メートル以上であること。
二 階層式寝台を有する場合には、上段と下段の間隔は、おおむね1メートル
以上であること。
三 適当な換気、採光、照明、防湿及び排水の設備を有すること。
四 当該施設に近接して公衆浴場がある等入浴に支障をきたさないと認められ
る場合を除き、宿泊者の需要を満たすことができる規模の入浴設備を有する
こと。
五 宿泊者の需要を満たすことができる適当な規模の洗面設備を有すること。
六 適当な数の便所を有すること。
七 その他都道府県が条例で定める構造設備の基準に適合すること。
簡易宿所の一種と位置付けるということは、施設使用の最低日数の要件を外すのかもしれません。
安倍首相も規制改革会議で民泊サービスの規制緩和を改革すると述べており、国交・厚労両省は抜本的なルール設備を法改正も含め検討しており、両省が設置する有識者会議ではその課題を洗い出しているとのことです(11月27日付日経電子版)。
特区からのさらなる規制緩和が見込まれていますが、近隣住民とのトラブル防止、安全の確保、さらには旅館やホテルとの競争条件も検討課題です。
また、マンションの管理組合においては、トラブル防止、環境維持等のため、民泊としての利用を禁止する管理規約の改正の是非が議論されることになりそうです。