<ポイント>
◆旅館業法の適用を受けない民泊の制度設計が政府有識者会議で審議された
◆家主居住型と家主不在型に分けてそれぞれに対応した枠組み作り
◆旅館業法不適用の線引きとなる「一定の要件」については利害調整が必要
民泊に関して「政府が全面解禁案」と題する報道がされました(5月13日付け日本経済新聞夕刊)。
政府(厚生労働省と国土交通省)の有識者会議「『民泊サービス』のあり方に関する検討会」が5月13日、第10回会議において、「民泊サービスの制度設計について」と題する原案を審議したことを受けてのものと思われます。
上記報道によりますと、関係省庁で細部を詰め、5月末に閣議決定する政府の規制改革実施計画に盛り込まれ、2017年の通常国会に新法として提出される方針とのことです。
有識者会議では、これまで旅館業法上の規制緩和によって対応すべき「早急に取り組むべき課題」と、現行制度の枠組みを超えて対処すべき「中期的な検討課題」を分けた議論がなされてきました。
前者については既に4月1日付の旅館業法施行令の改正により、簡易宿所の客室面積基準について、原則は33平方メートル(つまり10坪)のところ、宿泊人数が10人未満ならば「3.3平方メートル(つまり1坪)×宿泊者数」以上とするとの規制緩和がなされました。
とはいえ、あくまで旅館業法の許可を得なければならないことに変わりはなく、この規制緩和に沿った許可申請、許可があったかの報道には接しておりません。
民泊に関しては、東京都大田区や大阪府といった、国家戦略特区に基づく制度を採用している自治体もありますが、大阪府の場合、4月1日の申請受付開始に申請があったのは1件のみであり、現時点でもこの1件だけのようです。施設利用期間(宿泊日数)が7日以上でなければならない、という要件がネックとなっているようです。このように特区を活用した民泊も広がってはいません。
むしろ現行制度によれば、客観的には違法な民泊が多く行われているようです。
そこで、有識者会議で審議され、報道では「政府の全面解禁案」とされている資料「民泊サービスの制度設計について」の内容をご説明します。
資料には「健全な民泊サービスの普及を図るためのルール作り」とあります。そして、多様化する宿泊ニーズや(外国人観光客などを想定した)逼迫する宿泊受給への対応、空き家の有効活用等が制度目的とされています。
このような目的に対応するため、新制度が対象とする民泊を、「既存の住宅を活用した宿泊の提供と位置づけ、既存の住宅を1日単位で利用者に貸し出すもので、『一定の要件』の範囲で、有償かつ反復継続するもの」と定義づけています。
つまり、旅館業法の適用を受けないものを、一定の範囲で適法にして、規制をかける趣旨です。つまり、旅館業法の適用を受ける旅館、ホテルなどと線引きし、同法の適用を受けないことを明確にするものです。
旅館業法の適用を受けないので、用途地域の規制にかからず住居専用地域でも営業でき、宿泊を拒否すること(旅館業法5条)もできるということになります。
ただし、旅館・ホテル等との線引きをする「一定の要件」の内容がまだ決まっておらず、年間営業日数や宿泊人数を巡って、有識者会議の中でも意見の相違があります。後述します。
制度設計では、家主居住型と、それ以外の家主不在型に分けた仕組みを設けています。
家主居住型の場合、ホームステイのようなケースが想定され、家主が居住しながら、住宅の一部を貸しますので、家主による管理が可能と考えられています。
住宅提供者(家主)は民泊実施に当たり、行政庁への「届出」が必要です。インターネットを活用した手続が想定されています。
この場合も、利用者名簿の作成・備付け(パスポートの写し保存を含む)、最低限の衛生管理措置、利用者への注意事項説明、標識の掲示が求められ、法令・契約・管理規約違反がないことが求められます。
一定の場合に、行政庁による報告聴取・立入検査、実態が旅館・ホテルに当たる民泊や、家主居住型と偽った民泊についての業務の停止命令等の処分、法令違反に対する罰則を設けることが検討されています。
他方、家主不在型の場合は、騒音、ゴミ出し等による近隣トラブルや施設悪用の危険が高まり、苦情の申入れ先も不明確となります。
そこで、この場合、住宅提供者は、管理者に管理を委託することを必要としています。管理者が行政庁への「登録」をすることが必要です。ここでもインターネットを活用した手続が想定されています。
管理者についても、家主居住型と同様の項目にくわえ、苦情申入れ先についても何らかの規制が検討されます。
そして、現在、実態として広がっている民泊はインターネットサイトでの仲介業者が介在していることから、仲介業者への規制もかかる方向です。
行政庁への登録を必要とし、取引条件の説明義務や新たな制度に基づく民泊であることの表示が義務付けられる方向です。
行政庁による報告徴収・立入検査、登録取消処分、法令違反に対する罰則が検討されています。違反業者の名称、違反内容の公表も検討されています。
ただし、前述のとおり、旅館業法の適用を受けない民泊の「一定の要件」についてまだコンセンサスが得られていません。
年間営業日数については、年間営業日数について、上限(たとえば、30泊(60日以内))とすべきという意見から、制限を求めるべきではないという意見があります。
海外では、イギリスが年90泊以内、オランダ(アムステルダム)が年60泊の上限があるようです。賃貸住宅経営者団体からの有識者からの報告では180日以下ならば、ビジネスとして参入できないという報告がある一方で、旅館ホテル業の組合団体からの有識者によれば、ビジネスの採算性を主張するのであれば、「簡易宿所」の営業許可を取得すべきであるという意見が出されています。
また、一日あたりの宿泊人数についても、例えば4人以内といった制限を設けるべきという意見と、それより増やすべきとという考え方があります。オランダ(アムステルダム)の場合は4人以内、ドイツ(ベルリン)は8人以内としているようです。
そのほかにも、家主が一人でも管理が適切になされている限り問題ないという意見から、マンションの一棟貸しやその大半を民泊として使用するような民泊はホテル・営業と変わらないので認めるべきでない、新たなマンションを建てて、民泊に転用するのは認めるべきでないという意見もあります。
現時点でコンセンサスが得られる範囲で政府の「規制改革実施計画」に盛り込まれるようですが、来年2017年の通常国会に提出されるという法案のとりまとめ、あるいは法案審議では、まだまだ議論されるべき点がありそうです。