残業手当と残業時間管理について
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企業のコンプライアンス(法令遵守)違反で最もよく目にする事例は、残業手当(時間外手当)が適正に支払われていないことだといわれています。
残業手当とは、1日8時間以上または1週間で40時間以上働かせた場合に支払わねばならない割増賃金のことです。残業手当を支払うにあたっては通常の賃金より25%以上の割増しをしなければなりません(なお、2010年の4月1日から施行の労働基準法では、同法の基準による中小企業を除いて、1か月に60時間を超える残業について企業は50%以上の割増賃金を支払う義務があります。)。

とはいえ、経営状況からして現状の基本給に基づいて計算した残業手当を支払うことが不可能な場合もあります。また、そのような経営状況について従業員側もある程度理解している場合があります。
そのような場合、残業手当の未払い状態が発生しないようにするためにどうすればよいでしょうか。
よく用いられる手段としては、従業員との話し合いのうえ基本給を下げたうえで、例えば月45時間までの残業時間分として「残業手当」という名目の手当を支給する方法です。
つまり支給総額は下げずにそれまでの支給額を基本給と残業手当という名目に分割するのです。
もちろん実際の残業時間が月に45時間を超えた場合にはその分の残業手当を追加して支給しなければならず、それに伴いコストが増える可能性はあります。しかしそれまでの残業手当不支給という明らかな違法状態は解消することができます。

また実際に、残業手当の支払額を削減するために残業の必要性をきちんと管理することも非常に重要です。
タイムカードで打刻した出勤時間と退勤時間から自動的に残業手当を算出するという扱いをしている会社もあると思います。
しかしこの方法では残業時間と残業手当が無制限に増大しかねません。
そもそも残業というのは最初に従業員と約束した労働時間以上に労働させることであり、多くの場合その根拠は就業規則に求められます。
例えば「会社は、業務の必要性のある場合、○条に定める所定労働時間外に労働を命じることがある。」という規定です。
つまり残業は業務上の必要に応じて会社の命令に基づいて行われるもので、従業員が自由に行うものではないのです。
そのことを明確にするためには、就業規則でさらに以下のような定めをすることが望ましいと思います。
「時間外労働の必要性が生じた場合、従業員は事前に所属長に申し出て、許可を得なければならない。」
すなわち従業員が勝手な判断で時間外労働をしないことを明確にルール化するのです。
もちろん実際には無許可の時間外労働を黙認しておいたり、時間外労働の必要があるのに許可をしないというのは論外です。
しかし残業の許可を求められた場合に、なぜ残業しなければならないのか、明日にその仕事をまわすことはできないのか、他の手の空いている人にその仕事をさせられないか、など適切な業務上の指示を行えば、無駄な残業は削減できます。

しかも残業時間の削減にはコストカット以外にも大きなメリットがあります。
従業員の疾病が労災補償の対象となるかどうかについて厚生労働省の認定基準があります。
そのなかで労働時間は非常に重要な認定要素です。
評価の目安はここでは詳しくは述べませんが、1か月あたりおおむね45時間を超えて残業が増えるほど、業務と発症の関連性が徐々に強まるとされています。
すなわち残業時間を適切にコントロールすることで従業員の健康管理を図ることができます。その結果、労働災害の発生やそれに伴うトラブル(労災で病気になった従業員に対する人事上の取扱いの問題や病気になったことによる損害賠償の問題)などを避けることができます。