4月1日付の日経新聞によれば、株式会社東京放送(TBS)の筆頭株主である楽天が3月31日、自社の保有するTBS株の買い取りをTBSに請求したとのことです。このことは3月31日付けでJASDAQにもリリースされています。
2005年からTBSに対して経営統合を提案してきた楽天がその方針を変更するに至ったわけですが、その理由はTBSが「認定放送持株会社」へ移行することにあります。
認定放送持株会社とはラジオ局やテレビ局の経営会社を子会社に持つ持株会社のことです。2008年4月1日施行の改正放送法によって認められるようになりました。総務大臣による「認定」が必要です。
TBSは以前から子会社たる株式会社TBSテレビに番組制作を委託していました。今回認定放送持株会社として認定を受けるに際し、そのTBSテレビにテレビ放送事業等を承継させる会社分割(吸収分割)を行うことにしました。
吸収分割とは会社分割のうち既存の会社に事業を承継させる方法です。会社分割には株主総会の特別決議(出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要な決議)が必要です。
TBSの経営陣は昨年12月の臨時株主総会で、認定放送持株会社への移行を目的にTBSテレビへの会社分割を翌年(つまり今年)4月1日付で行うことを提案しました。
ところで認定放送持株会社においては、株主が33%を超える議決権を有する場合には議決権を行使することができません(改正放送法52条の35、同法施行規則等の一部を改正する省令17条28の24)。特定の法人や個人の支配を避けるためです。
したがって、楽天が過半数の株式を取得することによりTBSを支配することは不可能となり、また、3分の1超の株式を取得して特別決議(定款変更などの場合)を確実に阻止することもできなくなります。
そこで、楽天は、TBSの臨時株主総会でテレビ放送事業等をTBSテレビに吸収分割させる議案に反対しました。しかし、臨時株主総会はこの会社分割議案を決議しました。
会社法は会社分割や合併など会社の組織再編行為については、その議案に反対した株主に会社への株式買取請求権を認めています。
楽天はこの権利を行使して、TBS(認定放送持株会社への移行にともない定款変更をして株式会社東京放送ホールディングスに商号変更をしました)に株式買取請求をしたということになります。
なお楽天が3月31日に株式買取請求をしたのは、会社分割の効力発生日である4月1日の前日が期限だったからです。(その手続きについては当職執筆の法律情報「株主の株式買取請求について」をご参照ください。)
今後、楽天とTBSは株式の買取価格について協議することになりますが、4月30日までに協議が成立しなければ、楽天が裁判所に価格決定の申立てをすることになります。
楽天が株式を取得した時点での株価と現在の市場での株価は大きくかい離しており、TBSは現在の市場での株価を主張すると予想されます。両者が合意にいたるのは難しいかもしれません。
株式の価格決定の申立てについてはレックスホールディングスやカネボウのケースがあります。(当職執筆の法律情報「レックスの株式取得価格決定(東京高裁)」、「カネボウの株式買取価格決定事件について」をご参照ください。)
裁判所はレックスについては過去6ヵ月の市場価格の平均にプレミアムを乗せて価格を算定しました。カネボウについてはDCF法により算定しました。
いずれも上場廃止をした株式か上場廃止が予定されている株式の株価算定のケースであり、今回のような上場を維持したままの株式の価格の算定とは事案を異にします。今回の場合は特にプレミアムをつける必要はなく市場価格が公正な価格といえると思われますが、裁判所が市場価格だけで株式の価格を算定したケースはないようであり、その意味では初めてのケースとなるかもしれません。