<ポイント>
◆株券発行会社では株券がなければ株式譲渡できない
◆株券は簡単に作製できる
株式譲渡を検討する際に、基礎的な事柄であるのについつい確認が後回しになりがちなこととして株券の問題があります。以下のように会社によっては株式譲渡の際に株券の受け渡しが必要になることがあります。
とくに事業承継や中小規模のM&Aなどで新旧オーナー間で株式譲渡を行うときに注意が必要です。
現在の会社法のルールとしては、そもそも株券が存在しない株券不発行会社が基本スタイルになっています。平成18年5月の会社法施行以降に設立された会社の多くはこうした株券不発行会社です。
株券不発行会社の株式については株券の受け渡しということがありえないため、当事者間の契約のみで株式譲渡を実行できます。あとは名義書換え手続きを忘れなければよいわけです。
会社法下でも、定款に「当会社の株式については、株券を発行する」という条項をおくことで株券を発行することができます。これを株券発行会社といいます。
会社法施行以前に設立された会社については、定款変更により株券を廃止しないかぎりは株券発行会社とみなされます。これに該当する会社は相当数あります。
紛らわしいですが、株券発行会社であっても一律に株券発行が必須というわけではありません。
全株式について譲渡制限がされている会社(非公開会社)では、株主が要求しないかぎりは会社は株券を発行しなくてもよいとされています。株主が株券不所持の申出をしている場合も同様です。
実際にも、定款で株券発行を謳っていても保管上の問題などから株券発行しないままにしておくということがよくあります。
会社法施行以前の旧商法時代からこうした「事実上の株券不発行状態」が一般化しており、社会実態に合わせて会社法では一律に株券発行を要求するルール自体を改めたという経緯があります。
株券発行会社だが実際には株券が発行されていないという場合、不発行状態それ自体は適法であるものの、そのままでは株式譲渡ができないことには注意が必要です。
株券発行会社である以上「譲渡時には株券受渡しをせよ」というのが会社法のルールになっています。このため、株式譲渡するためにはまず株券を発行してもらわなければいけません。この点は見落としがちなので注意してください。
株式の買い手としては、株式譲渡を受ける準備段階で早々に商業登記や定款で対象会社が株券発行会社と株券不発行会社のいずれであるのかを確認してください。
株券発行会社であれば、これまでに株券が発行されているか、それを売り手(会社の現オーナー)が所持しているかどうかも確認します。
決済時には代金支払いと株券の受渡しを同時に行います。
「面倒だから株券不発行のままで譲渡実行できないか」という相談を受けることがあります。
たしかに、旧商法時代の判例を参照して、会社が株券発行を怠っている場合には株券がなくとも株式を有効に譲渡できるという一種の救済的解釈がなされることがあります。
しかし、この解釈は株主と会社が対立関係にあるケースを想定しており、株券を発行するかどうかを自分で決めることができるオーナー経営者が株式を譲渡するケースは射程範囲外というべきです。
オーナー経営者による株式譲渡に際してはやはりルールどおりに株券の受け渡しを行うべきです。株券が発行されていなければ決済時までに発行すればよいのです。
株券を作製するのはごくごく簡単なことです。
高額な費用を支払って証券印刷に発注する必要などなく、文具店で売っている定型の株券用紙を用いるので構いません。あるいは自分で印刷しても構いません。
種類株式発行会社でなければ、株券の記載事項は株券番号、社名、株数、譲渡制限株である場合にはその旨、これだけです。種類株式発行会社の場合は株式の種類と具体的な権利内容も記載します。
これらを記載して代表取締役が記名押印すれば株券のできあがりです。特別な用紙など不要で簡単に作製できます。
この程度の手間で解決できるのですから、過去の判例などを持ちだしてきて微妙な解釈に頼るまでもないことです。