<ポイント>
◆取締役の報酬額等は株主総会で定める必要がある
◆株主総会決議を経ずに支払われた取締役報酬を事後的に承認にすることは可能
会社法は、取締役の報酬額等について定款で定めていないときは、株主総会の決議によって定める旨規定しています(361条1項)。したがって、かかる定款の定めのない株式会社では、株主総会決議を経なければ取締役の報酬請求権が発生しないことになります。なお、かかる定款のある株式会社は稀と思われます。
しかし、実際には、株主総会決議を経ずに取締役の報酬を支払っている中小企業は少なくありません。このように株主総会決議を経ずに支払われた取締役報酬について、事後的に株主総会で承認にすることが可能なのでしょうか。
このようなケースについて判断した判例として、最高裁平成17年2月15日判決(以下「本判決」といいます)があります。本判決は概ね次のような事例です(便宜上、簡略化している部分があります)。
・株式会社A(以下「本件会社」といいます)において、株主総会決議を経ずに取締役であるYらに取締役報酬が支払われてきた。
・株主であるXは、このことによって本件会社に支払い済みの取締役報酬相当額の損害が生じたと主張し、Yらを提訴した。
・この提訴後の株主総会において、過去に遡ってYらの取締役報酬を承認する旨の決議がなされた。
本判決は、概ね次のように判示しました。
・商法(※)が、取締役の報酬について株主総会の決議によって定めると規定している趣旨目的は、取締役ないし取締役会によるいわゆるお手盛りの弊害を防止することにある。
※商法時代の判例です。商法にも上記で説明した会社法と同趣旨の規定がありました。
・株主総会の決議を経ずに取締役報酬が支払われた場合でも、後に株主総会の決議を経ることにより、事後的にせよ上記の趣旨目的は達せられる。
・したがって、後の株主総会決議の内容等に照らして上記の趣旨目的を没却するような特段の事情があると認められない限り、取締役報酬の支払は株主総会の決議に基づく適法有効なものとなる。
・上記特段の事情の存在することがうかがえない本件においては、訴訟提起後の株主総会決議により、取締役報酬の支払は適法有効なものになったというべきである。
要するに、
株主総会決議を経ずに支払われた取締役報酬については、
お手盛りを防止するという会社法の趣旨を忘却するような特段の事情がない限り、事後的に株主総会で承認にすることが可能
ということです。
本判決については、株主総会決議が訴訟提起後のものであったこと、当該株主総会決議にはYらも参加しており賛成74株のうち64株がYらの株式であったこと(なお、反対が26株)も注目すべき点です。本判決は、このような株主総会決議であっても、
お手盛りを防止するという法の趣旨を忘却するような特段の事情が存在することが伺えない、と判断したのです。