株主総会における弁護士を代理人とする議決権行使(令和3年判決を中心に)
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<ポイント>
◆弁護士による議決権の代理行使を認める判例、認めない判例は数例ずつ
◆株主の出席が困難な場合には認める傾向にある
◆拒絶のメリット、デメリットを勘案して決議取り消しリスクの回避が必要

 

株主総会において、株主が代理人によってその議決権を行使することができることは会社法310条1項に規定されています。この規定から、定款によっても代理人による議決権行使を禁止できないといわれています。また、同規定では代理人の資格は制限されていません。
一方で、定款で代理人の資格に制限を加えて、株主であることを要するとすることは、上場会社、非上場会社を問わず実務として定着されているようであり、このような制限が有効であることは最高裁の判決で認められています。
そこで、そのような定款の下において、株主が弁護士に委任して株主総会で議決権を行使させようとした場合、会社はこれを拒めるかという問題があり、拒めるとする判例、拒めないとする判例がそれぞれ数例あります。
比較的最近だされた東京地裁令和3年11月25日判決は、会社は拒めないとする判例です。

まず、上記最高裁判決は、会社法310条1項(当時は商法239条3項)の規定は、合理的理由がある場合に、定款の規定により、相当と認められる程度の制限を加えることまでも禁止したものとは解されないとしました。
株主総会が、株主以外の第三者によってかく乱されることを防止し、会社の利益を保護するために上記規定を設けて株主以外の者を代理人として議決権行使することを拒むことは適法であるとしたのです。

上記東京地裁の事案は、定款で代理人を株主に限る旨の規定がある閉鎖会社の定時株主総会で、株主の一人が、予め代理人として弁護士が出席することを認めるよう要請しましたが、会社はこれを認めず、出席株主(上記株主は出席せず)が全員賛成して各議案が可決され、これに対して上記株主が決議の取り消しを求めて提訴したというものです。
なお、賛成した出席株主の株式は議決権を行使しうる株式の約93%、代理行使を求めた株主の株式はその約6.6%でした。
判決の要旨は以下のとおりです。
上記の最高裁と同趣旨のことを述べた上で、弁護士の特性から依頼した株主の意図に反する行動をすることは通常想定されないこと、株主間での対立により議決権行使を委任する株主がいない(判決では「議決権の行使を委任するに足りる信頼関係が損なわれる」といっています)ことも想定されること、これらから、予め弁護士による代理行使を認めることの可否を検討する機会が与えられ、当該弁護士により株主総会がかく乱されるような事情が認められない場合に弁護士による代理行使を拒否できるとすれば、株主としての意見を株主総会に反映することができず、事実上議決権行使の機会を奪うに等しく、不当な結果となるとしています。

弁護士による議決権の代理行使の可否についての最高裁の判例はありません。
上記のとおり、下級審において判断は別れていますが、株主総会がかく乱されて会社、ひいては株主全体の利益が害されるおそれがないか、代理行使を否定することが当該株主の議決権行使の機会を事実上奪うに等しいかは、判断の重要な要素といえます。
上記東京地裁の判決は、代理人が弁護士でありかく乱の可能性が低いこと、原告である株主が持病等により出席できず、その意見が他の株主の意見と異にしていること、以前に弁護士による代理行使を認めたことがあること等が指摘されています。なお、傍論ながら、弁護士であることのみをもって代理行使が認められるわけではないと述べられています。
上記東京地裁の判例を含めて、比較的最近の判例は弁護士による代理行使を認めているようですが、曖昧さは残ったままです。
弁護士による議決権行使の求めがあった場合、上記の要素を勘案した上で、拒否することのメリットと決議取り消しのリスクの回避を考慮した慎重な検討が必要といえます。